とうとう雨になった。ぐずついているとは思ったが。
梅雨なんだ、仕方ない。でも天気予報では、明日のはずだったのに。
雨のなかの紫陽花はきれいだ。
いつもの帰り道なのに、きょう、はじめて気がついた。
商店街前のバス停でおりて、アーケードのなかを通ると、すこし遠回りだけど雨からにげられる。
それともその奥の肉屋さんでコロッケなんかを買ったりして。
美味しいんだよな、あそこのコロッケは。
他よりは五円高いけど、それだけのことはある。
やっぱり中の肉がちがうのかな?
「かさを買って帰ろうかな」なんてチラリと思ったけど、きょうはどうしても濡れて帰りたかったんだ。
わかる? やっぱり。
かっこつけるわけじゃないけど、泣いてるぼくを、だれにも見られたくなかったんだ。
それにもう、けっこうびしょ濡れだしね。
バスのなかでも、空いてたけど席に座わんなかったし。
だって次の人が座われないよ、きっと。
商店街入り口の百貨店、大きなショーウィンドウのなかに、ずぶ濡れのぼくが映ってた。
白い開襟シャツ、グレーのズボン、そしてうす汚れた白い短靴。
会社の制服だ。
事務の女子たちは、グレーのスカートに白いシャツ、そしてグレーのチョッキ。
靴は、くつは……。知らない、そんなとこ見てないモン。
外まわりの営業さんは、Yシャツにネクタイをして、グレーのズボン、そして黒い革靴。
ボクが歩けば、ペタペタ。けど営業さんは、コツコツ。
そしてたばこを、ぷかぷかと。
おなじ二十歳でも、ずっと大人にみえる。
でも良かった。
まいにち通ってたみちなのに、いままで気がつかなかった花壇をみつけた。
雨に打たれてる花を見てたら、いまにも蝶々が飛びだしてきそうに思えた。
白・紫・黄…、色んな色の花があって。
みながそれぞれに個性を持っているくせに、キチンと紫陽花の花になっている。
おもしろい!
いいんだ、もう。すぐに返事をくれたんだ。もういいんだ。
いいんだ、誤解がとけただけでも。
べつに強い願望でもなく、できれば…という気持ちだったんだから。
こんやはもの悲しい。
断られたことがショックには違いないけれど、それよりも、独りよがりの夢に酔いすぎたことだ。
部屋の空気が重いせいもあるだろう。
無限の宇宙に、なにかがおおいかぶさっている、ってか。
しかし、なんのために手紙を書いた?
あの人に、ぼくのことを「お坊ちゃんですね」と、言わせるためなんかじゃなかったはずだ。
もっとも、こんなぼくなんかと文通しても、なんの面白みもない。
話題といえば、文学のことぐらいだし。
気の利いたことばなんて、書けやしない。
だけど、答えてもらえなかったのが残念だ。
「うたっているときのあなたのこころには、いったいなにがあるのだろう?」
どうしてきょうに限って雨なんだ!
部屋のなかまで、どしゃぶりだ。
なにもかもが歪んで見える。
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