突然店内が暗くなり、スポットライトに照らされたマネージャーがフロアの中央に立っている。
「さてさて、紳士淑女の皆皆さま!」
「おーい! どこにレディが居るんだ!」と、上本が声を上げた。
「そうだ、そうだ!」と、同調の声。
「それは失礼致しました。では訂正させて……」
「マネージャー! ここには淑女しか居ないのよ!」と、今度は女給が叫ぶ。
「とに角、ようこそのお出で、まことにありがとうございます。
本日のビッグスター、天才マジシャンのご登場でーす!
どうぞ万雷の拍手でもって、お迎えくださーい!」
ドラムの音に合わせて、黒マントに黒のシルクハット姿で登場してきた。
マスクに口ひげを生やした男で、「怪傑ゾロ!」との声に、「グラッチェ!」と声を張り上げた。
「なんだい、あれは。西洋式の奇術師かなんかかい?」
初めて見る異様な出で立ちに、正三が見を乗り出した。
「知らないの? 今、大人気なのよ。とに角すごいの!」
ひとみが身振り手振りを交えて、詳細に説明をする。
しかしあまりの興奮ぶりに要領を得ない説明となってしまい、正三にはちんぷんかんだ。
「と言うことで、どなたかいらっしゃいませんか?」
助手の女性が、大きく手を広げている。
しかしひとみの説明に耳を傾けていた正三たちには、さっぱりだ。
「はあい! うち、うち、やりたいわあ」と、ひとみが立ち上がった。
「おいおい、分かってるのか?」
「いいからいいから。体をのこぎりで切られるのよ、くふふ」
唖然とする正三たちを後目に、るんるんとステージに向かっていく。
「坊ちゃんと話をしてたのに、聞こえてたってことなのか」と、不思議がる正三たちに、薫が答えた。
「耳に入るのよ、自然に。目配り、気配りしてなんぼの世界だからさ」
ぷーっと頬を膨らませて、正三をつねりにかかった。
「おっと、そうそうやられてたまるか」と、ひとみを抱き寄せた。
「いやん、しょう坊。案外助平なんやね。
難しい顔してはったから、真面目なお人かと思うてたわ。
むっつり助平とかやね、けはは……。
うち、大好きやわ。真面目な助平さんは」と、正三の首に手を回してきた。
「課長! 良いお店ですね、ここは。
入った当初はくさくさしましたが、実にいい。
このひとみさんが、実にいい。気に入りました、これからはここですね」
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