(七)
“しかしだ。女の方から言い寄ってくれば、そいつは別だな。
据え膳食わぬは、男の恥だ。女に恥をかかせるわけにはいかんぞ”
などと、勝手なことを思い巡らせている。
部屋に落ち着いた武蔵。
心づけを仲居に渡しながら、早速に声をかけた。
「女将さんは忙しいだろうかな?
手が空いていれば、来て貰いたいんだが」
「まぁ、こんなにも。ありがとうございます。
女将さんですね? すぐにも来させますので、少々お待ちください。
他に何かご用がありましたら、お声をおかけください。
何はおいても、馳せ参じますので」
と、満面に笑みを浮かべている。
女将の情かとぞんざいな態度を見せていたが、心づけを手にした途端に豹変する仲居だ。
*情夫(いろ)
“ふっ、現金な女だ。
ま、田舎女なんてこんなものだろうさ。
しかし好きだぜ、俺は。正直で良いや。
女は賢くなくても良いのさ、色香もいらねえ。
男が女に求めるものは、何といっても安らぎだ。
ほっとできる時間を作ってくれる女が良い”
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