(二十六)
さてさて、すぐにもバスに乗り込みたいところですが、もう少し待って下さいな。
実は、That’s おFrance! なことがあったのです。
後ろから、派手なロックミュージックが流れ始めたと思って下さい。
それはそれは、大音量でした。皆が皆、後ろを振り向いたのですから。
道路脇には、テレビクルーでしょうか、車が止まっていました。
長い机が、道路の中央辺りに二つほど並べてあります。
サイン会でも開くのでしょうかね。
その机の後ろに、白マスクをかぶった男女が二人居ました。
映画に出てくるような、白仮面ですよ。
一人はひげが書き込んであります。
ほら、鼻の下からぴんと横に跳ね上がるようなひげですよ。
フランス人に、よく見かけるじゃないですか。
そうそう、ピンクパンサーのクルーゾー警部みたいな。
ご存じない? 怪人ファントムが出てくる映画ですけど。
うーむ、時代のギャップを感じますねえ。
「昭和も遠くになりにけり!」ですか……
プロモーションでしょうか、一人の青年がテレビの取材を受けてます。
話、できるんですかね? この大音量の中で。
周りに人だかりが出来はじめました、写真を撮っている人もいます。
新人グループなんでしょうかね、机の後ろの二人に、もう一人が加わりました。
わたしもね、写真を撮ろうかと思ったんですよ。
タイミングが悪く、「バスが来たよ!」と声が掛かっちゃって。
何が、「That’s おFrance! だ?」ですって?
これからですがね、これから。
バスに乗り込むなり、ガイドさんが言うんです。
「ご多分にもれず、フランスも不況のまっただ中です。
閉店する店も珍しくありません」
なんなんだよ、政治の話でもするの?
それとも、この不景気の最中(さなか)にフランス旅行を企画してくれた会社に感謝しろとでも言うの?
そんなの、余計なお世話だよ。あんたに言われなくても、十二分に感謝してますよ。
一生懸命、毎日仕事を頑張ってますよ。
「気が付かれたと思いますが、先ほど閉店に対する抗議のデモンストレーションをやっていましたね。
あそこは、あるレコード店の前です。
つい先日、閉店しました。
インターネットでのダウンロード販売やら、大手レコード店の進出やらで経営が成り立たなくなったお店です。
お客さんが来なくて、閑古鳥が鳴いてる状態でした。
閉店セールを一週間ばかりやったのですが、その時はもう、大賑わいでした。
閉店する必要なんかないんじゃないの? という声が聞こえるくらいで
ということで、従業員たちがオーナーに対して、抗議の声を上げているところでした。
こういうのは、パリでは珍しくありません。至るところで、こういったシーンを見ることが出来ます」
芸能関係のイベントかと思っていました。
それにしても派手な抗議の仕方でした。
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