昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (七)戦時下の昭和十九年のことです

2024-09-18 08:00:55 | 物語り

 戦時下の昭和十九年のことです。
早いもので、ふた昔、いえ三むかしということばはございませんね。
そう三十年以上になるのですね。
辻々にありました立て看板、覚えてらっしゃいますか?
「ぜいたくは敵」。「欲しがりません勝つまでは」。「飾る体に汚れる心」。
ですが、これなどはけだし名言ではございませぬか。「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」。
 それにしましても、目的のための手段が実は目的化しているようにも、思えるのですが。
あらあらご賛同いただける声があがりました。
ありがとうございます。はい、足立三郎さまからの薫陶のたまものです。

 学校のとなりに、と言いましても、正門からは百メートル近くありますでしょうか、角にある駄菓子屋のまえに小さなお子たちがたむろしていました。
それこそたくさんのお菓子類を、らんらんと目をひからせて品定めをしております。
ひとり飛び抜けて大きい子がおりますが、この子らのガキ大将でございましょう。
「ひとりひとつにしておけ。あしたもあるんだぞ」
 と、いくつもの菓子を手にした子を叱っています。
「でも……。おっかさんに言えばあしたももらえるし」と不満顔です。
そう申したところで、頭をゴツンとやられています。
その子にすれば親御さんから毎日お小遣いをいただけるということでしょうが、他のお子たちはそうもいきますまい。
案外のところ、ガキ大将自身がそうなのかもしれません。
ですので、遠慮しろといったところでございましょう。
それこそ、先ほどの立て看板ですわ。

 自宅から学校まではバスを利用しています。
五つほどの停留所をすぎてのこととなります。
大きなビルやら公園を横に見ながら、緑々とした並木道をはしりぬけます。
反対車線では、きょうもまた道路工事です。
道路をほりかえしては埋め、埋めてはまたほるのくり返しです。
これでは渋滞があちこちで起きてしまいますわね。

 バスを降りてすぐの角が、小さな商店街となります。
小さなと申しますのは通りの長さが短いということもありますが、お店自体も小さく個人のお店ばかりなのです。
順に見ていきますと、洋品店、呉服店、うどん屋、雑貨店、だんご屋、金物店に本屋さん。
反対側では履きもの屋、傘店、八百屋、魚屋、骨董屋、時計店、そして商売仇の和菓子店といった具合です。
そうそう、角のたばこ屋さんを忘れていました。

「いま帰りかね? じょうちやん」。「きょうは友だちづれかい」。「新しい本が入ったよ」
 みなさんからいろいろと声をかけていただきながら、それぞれに「ごきげんよう」とお応えをして通りすぎました。
いつもはバス停でみなさんとはお別れするのですが、その日は出がけにわたくしの父親から
「学校が終わったら、おともだちを何人かつれてきておくれ。新しいお菓子のでき具合を聞いてみたいから」
と、言われております。
お店はこの商店街を出て左にまわった三軒目となります。

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿