そろそ秋の涼風が身にしみる。
車の流れが止まり、通りを横切ろうと右足を踏み出した時、背後から鋭い声がした。
「待って! おじさん」
黒いマントに赤い縁取りのついたコートの女性だった。
一瞥した後、人違いだろうと背を向けたが、ハッと思い直し、もう一度見た。
「まさか」と思わず声を出し、その女性を凝視した。
まぎれもない、あの少女だ。
赤いミニスカートに同色のセーターを着ていたあの娘だ。
〝そういえば、大きな紙袋を手にしていた〟と、男は思いだして頷いた。
「うーん、仲々似合うよ。見違えた、立派なお嬢さんだ」
「おじさんだから、着替えたの。TPOの時代だもんね」
「どこだい、寮は?」
「いいの、今夜は。外泊届けを出してあるから」
男に答えると言うよりは、自分に言い聞かせているように言った。
「そう、友達の家かな? 送っていこうか、途中まででも」
「ちがうの。さっきの話、今日のことなの、ホントは。だから、一人になるのが…」
「やれやれ、困った娘さんだ。どうしたものか」
男は娘に急かされるように、ネオンの下を歩いた。
生活を共にしていた女に、「必ず戻ってくる」と言い残し、失った情熱を探しに出た男だった。
いつの頃からか、人を愛することを忘れてしまった男だった。
その女とは甘い言葉を囁くこともなく、「来ちゃった」という言葉から同居生活が始まった。
車の流れが止まり、通りを横切ろうと右足を踏み出した時、背後から鋭い声がした。
「待って! おじさん」
黒いマントに赤い縁取りのついたコートの女性だった。
一瞥した後、人違いだろうと背を向けたが、ハッと思い直し、もう一度見た。
「まさか」と思わず声を出し、その女性を凝視した。
まぎれもない、あの少女だ。
赤いミニスカートに同色のセーターを着ていたあの娘だ。
〝そういえば、大きな紙袋を手にしていた〟と、男は思いだして頷いた。
「うーん、仲々似合うよ。見違えた、立派なお嬢さんだ」
「おじさんだから、着替えたの。TPOの時代だもんね」
「どこだい、寮は?」
「いいの、今夜は。外泊届けを出してあるから」
男に答えると言うよりは、自分に言い聞かせているように言った。
「そう、友達の家かな? 送っていこうか、途中まででも」
「ちがうの。さっきの話、今日のことなの、ホントは。だから、一人になるのが…」
「やれやれ、困った娘さんだ。どうしたものか」
男は娘に急かされるように、ネオンの下を歩いた。
生活を共にしていた女に、「必ず戻ってくる」と言い残し、失った情熱を探しに出た男だった。
いつの頃からか、人を愛することを忘れてしまった男だった。
その女とは甘い言葉を囁くこともなく、「来ちゃった」という言葉から同居生活が始まった。
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