昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(十八)の七

2011-10-10 21:18:22 | 小説


“そうよね、どうしてかしら?
ここのところ、突然涙が出てくるのだけど、どうしてかしら。”
東京に出ることに対し、不安がないわけではない。
しかしその不安を打ち消すほどの、明るい未来を感じる。
信じられないことなのだが、茂作のことが気にかかる。
茂作に対し、特段の罪悪感を感じるわけではない。
“ごめんね”の一言で済んでしまう程度のものだ。
仕方のないことだ、と思っていた。
初めての心持ちで、どう考えたらいいのか、小夜子には分からない。
持て余す小夜子だ。
そして今、いよいよとなると、何故かしら泣けてくる。
小夜子の預かり知らぬところで、涙腺が緩んでしまう。
気が付くと、涙が頬を伝っている。幸恵が見た涙も、そんな涙だった。
小夜子に涙は似合わない。
どんなに辛い時も悲しい時も、ついぞ涙は見せない。
“泣いたら負けよ、負けたら終わり。”
そんな思いが、小夜子を縛り付ける。
“悲しくもないのに、どうして涙が出るの?”
自問しても、答えが出ない。


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