昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (四)  それ以来、貴子の男性不信が始まった

2014-10-22 08:48:26 | 小説
当時の貴子は未だ十八歳であることを考えれば、無理からぬことではあった。
同窓生の中には既に経験済みの者も居はしたが、ほんの一握りだった。
その後次第にその男からの誘いがなくなり、貴子から連絡を取っても生返事が返ってくるようになった。
そして別の女性との交際を知った。

その女性とは貴子との交際が始まる前からの付き合いだと、先輩女子社員に聞かされた。
然も彼の子供を堕ろしたことがあるらしい、とも。
それ以来、貴子の男性不信が始まった。
”みんなそうなのかしら…。sex目的の交際なの?”

時折吹き付ける風は、まだ冷たさが残っていた。思わずジャンパーの襟を立てる彼に、
「ちょっと、みっともないわよ。背筋を伸ばして! 襟は立てない!」
と、貴子がたしなめた。
「だけど寒いんだよ。貴子さんはいいよ、コートを羽織っているんだから。あっ?! 貴子さんでいい?」
「うーん、どうしようかな? …うふふ、いいわよ、貴子でも」

苗字ではなく名前を使い始めた彼に、貴子は内心嬉しくなった。
彼との距離が近づいたようで、”今夜食事して良かった”と思えた。

「ありがとうごぜぇますだ、お嬢様。
さすれば、私めのことは『たけし』と呼び捨てになすってくださいましな」
と、彼がおどけた。
「もう! ホントに、おかしいわよ。ミタラ、間違えた、たけしは」
彼の脇腹を何度も肘でつつきながら、貴子は笑い転げた。



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