昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一章~(一) ひ弱な青年

2014-08-24 09:24:27 | 小説
(二)

しかしその為に、自ら部活動すら決めることすらできないひ弱な青年に育ったことも、否めようのない事実だった。
結局のところ、茂作の決めることとなり、数ある部の中から「源氏物語クラブ」が選ばれた。
理由は、「古典の授業において有利に働くから」であった。

そんな彼だったが、大学入試に全力を傾けている頃、校庭でボールを追いかける同級生を見るにつけ、己の境遇に疑問を抱き始めた。
のびのびと高校生活を楽しむ同級生達が、女子生徒達と楽しく笑い興じている同級生達が、羨ましく且つまた眩しく見えた。

彼は武蔵のようにはなりたくなかった。
「風貌がお父さんそっくりだ」
という、村人達の言葉に嫌悪感さえ感じていた。

武蔵は脆弱な体格で、腰も低く人当たりの良い性格であった。
その風貌からは、強引な仕事ぶりは想像がつかない。
同業者に対する強面の後ろ盾には、何といってもGHQとのつながりが大きかった。

経済的には十分すぎる程に恵まれていた彼の母親だが、実の所は幸せではなかった。
一人の夜を泣き濡れて過ごすこともままあった。

「男子の一生は、女子供の為にあるのではない。仕事の為にあるのだ」
そう公言して憚らない彼の父親は、外泊することも度々だった。

新婚当初こそ夕食を共にしてはいたが、二ヶ月も立たぬ内に一人の夕食になった。
といって、彼の父親の愛情が薄れたというわけではない。


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