昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[舟のない港](三十)

2016-04-07 09:16:02 | 小説
男は、すぐに傍らのボックスに横たわらせると、黒服が届けてくれた冷たいおしぼりを額に乗せた。
支配人の機転でもって、個室を提供してもらった。
家族に連絡をとろうかと考えたが、方法がわからない。
ミドリに声をかけても、返事のできる状態でもない。
酔いの醒めるのを待つしかなかった。

ミドリの手が、しきりにブラウスのボタンにかかる。
苦しげな表情を見せるミドリだった。
男は意を決して、ミドリのブラウスのボタン一つを外した。
胸が激しく波打っている。
麗子ほどではないが、ふっくらとした乳房に思えた。
不謹慎な! と思いつつも、男の目は釘付けになっていた。
白い肌だった。
男の脳裏に、またあの夢が蘇る。ムラムラと欲情が湧いてくる。
男は必死に抑えた。

 少しは楽になったのだろう、息づかいが少し和らいだようだ。
「あ、私。そうだわ、ダンスをしてて。すみません、ご迷惑をかけて」
と、力無く言うと起きあがろうとした。
あわてて男は、ミドリを制した。
「まだダメだよ。もう少し横になっていて良いよ。
それに君が謝ることはない。僕が悪かったんだ。
もう少し気を付けてあげれば良かった。ホントに悪かったよ」

 まだ辛いのだろう、かすかに微笑みながらも、時折 眉間にしわを寄せる。
いや、しきりに 背中を浮かそうとしている。
起きあがるつもりではないようだ。
右手を 背中に回そうとしている。
男は、タオルを取り替えようとしていた手を止めて、尋ねた。

「どうしたの? 背中の下に何か入っているのかな。何もなかったはずだけど」
「いえ、いいんです。いいんです」と言いつつも、やはり背中でゴソゴソしている。
 男は、そっとミドリの体を 起こした。
相変わらず、「すみません、すみません」と、何度も呟く。
「あっ、そうか。きついのか、胸が苦しいんだね、気分が悪いんだ」

 ミドリがブラジャーのフックを外そうとしていることに、男は気付いた。
今度は、両手を使って外しにかかった。
しかし、ブラウスの上からの せいもあってか、なかなか外れない。結局は諦めた。
「そうか、苦しいのか」
「え、ええ‥‥」



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