昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (五) バイトの方が、活きた講義だ!

2014-10-28 08:44:57 | 小説
”これが最高学府の講義なのか”
彼の失望は大きかった。次第に勉学に対する情熱が薄れ、彼はアルバイトに熱中するようになっていた。

”デパートでのバイトの方が、余程に活きた講義だ!”
そんな思いがよぎるようになっていた。

元々彼自身が望んだ学部ではないことが、常々不満であった。
茂作に押し切られての学部であることも、不満の種だった。
「行く行くは、教師になるんだ!」
茂作の考えは、単純明快だった。
「世間から尊敬される職業に就くのが一番だ」

彼には、確固たる信念を持った進路があるわけではなかった。
将来像を描く間もなく、唯々勉学に勤しんでいた。
”母親に喜ばれたい、母親の笑顔を見たい”
その一心だった。
幼くして父親を失った彼にとって、母親のみが味方だった。
彼にとって母親は唯一絶対だった。

「お母さん、お母さん。百点とれたよ、ほら。ぼくだけだよ、百点は」
目を輝かせて見せる彼に対し
「すごいわねえ、タケくんは。お母さんの宝物よ、タケくんは」
と、膝の上に乗る彼とともにテスト用紙に見入った。
「武士! 一度だけじゃだめじゃぞ! 何度も続けてこそ価値があるんじゃからの。気をゆるめずに励むんだぞ」
茂作の手厳しい声もまた、日常のことだった。


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