昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (七)

2024-11-02 08:00:25 | 物語り

「ピュルルル、ピュルルル……」
玄関先においてある電話機のよびだし音が、けたたましく鳴りだした。
音量をいっぱいにあげてあり、ベッドで寝ていても気づくようにしてある。
携帯電話をそばにおいておけばここまでの音量は必要がないのだが、ショルダーバッグにいれていては、その音に気づかないことが多い。
外出先から帰ったおりにバッグから取りだせばいいのだけれど、どうしても忘れてしまう。

というより、携帯電話に意識がまるでない。
まてよ、連絡先にはだれがいれてある?
かかりつけの病院、これは必須だ。
歯科に眼科、そして整形外科。そうそう、大きな病院もいれてある。
あとは……、調剤薬局もいれてある。
それから……車屋と、ああパソコンにSSDをいれてもらったので、パソコン専門店もだ。

身内? 恥ずかしながら、1箇所もない。
たったひとりの兄を亡くしてからは、ゼロになってしまった。
叔父がいたのだが、4、5年まえに亡くなっている。
家族については、離婚後に連絡先がわからなくなってしまった。
息子と娘のふたりがいるが、別れた嫁さんにブロック(?)されてしまっている。
友人も昨年に亡くなってしまった。 

それにしても、電話がかかるとは珍しいことだ。
時計を見ると、もう10時近くを指している。
寝坊をしてしまったと、慌ててベッドを出た。
もういい加減起きなくてはと、こんどは素早くベッドを出た。
しつこく鳴りひびく電話に出ると、「はい、どちらさん?」と不機嫌に答えた。

「ああ、やっと出てくれたね。
だめだよ、田中さん。こっちも忙しいんだからさ」
 こんな失礼な言い方をされては、こちらも黙っていられない。
「そちらこそ失礼でしょ! 
わたし田中じゃありませんから。番号ちがいですよ」
 しかし「なに言ってるの、田中さん。
きのう、女の子が電話したときには、出てくれたじゃないの」と、相手は引きさがらない。



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