そうそう、あの佳枝さんですが、里江さんと入れ替わるような形で巣立って行かれました。
お迎えに上がられた女将さんも、精進されての立派なお姿に涙ぐんでおられました。
佳枝さんもお世話になった大女将との別れがよほどに辛いらしく、おいおいと折角の化粧が台無しになるほどに大泣きされて、それは大変でございました。
大女将のごしどうは、瑞祥苑の女将とは大違いでございまして、それこそ手取り足取りでございました。
寝室にしましても同室にされました。
そういった意味では、佳枝さんにとってはどうなのでございましょう。
「ありがたいですわ、ほんとうに。
母の愛情など、わたくしまったく知りません。
おばあさまはご存じの気性ですので、婆やまかせといった観でしたから。
家庭というものが、わたくしの場合は……」と、涙ぐまれます。
それがご本心ならばよろしいのですけれど。
邪推がすぎますかしら。でも、大女将にとってはどうだったのでございましょうか。
失いました娘の清子があたまをよぎります。
ひょっとして清子の代わり……、それとも、対抗心? いろいろですわね。
なににしましても、この3年足らずの出来事は、わたくしにとりましても、大きな出来事でございました。
清二のことでございますね。女性のことばかりで殿方のお話を失念しておりました。
この明水館におきましては、世間さまとは少々趣の異なる家風でございます。
三従なるものは、いっさい存在しません。
[幼きときは 父に従い、嫁(か)しては夫に従い、老いたるときは子に従うべし]。
今どきのご時世では当たり前のことかもしれません。
ですがこの明水館においては、まったくの逆なのでございます。
清二の父親である栄三さまにしてからが、存在感を示すことができなかったことはすでにお分かりのことと存じますが。
ゆいいつ、清二のことだけが親類一同が認めたものでございますから。
やはり血筋としては、男系をもとめられるのですね。
はやい話、女将は外から迎えてもなんの問題もございませんし。
あらあら、さきほどお話したことと逆になりましたかしら。
娘を産み落としたおりには、それはもう、下にも置かぬあつかいでございましねえ。
要は、一男一女がよろしいのでしょうか。
まあ半端者でございましたから、清二にしてもどこで何をしているのかと気にするも者はおりません。
日がな一日パチンコ店に入りびたっていたとは思いますが、ある意味では可哀相なものです。
ですのでこれからは気にかけてやりたいと思います。
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