昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第三部~   (四百六十六)

2025-03-11 08:00:53 | 物語り

 まず竹田に複式簿記のなんたるかを説明し、いかに会社経営において有用であるかを認識させた。
そして竹田同席のもとで服部を夜の会席に呼び出し、さらには五平をも同席させて、あらためて複式簿記の有用性を説いた。
いくら内容を聞いてもちんぷんかんぷんな表情を見せる服部への、竹田の「ぜったいに必要なことだ」とのことばが、真理恵の援護射撃となった。

 表に出したくない金員を佐多から頼まれることがある。
民間会社では使途不明金として処理できるものが、銀行だと金融庁からの厳しい目が光っている。
監査が入ろうものなら、出世はおろかその場に留まることすらできない。
場合によっては、おのれの進退をも左右することになる。
二の足をふむことの多いなか、佐多は積極的に受け入れてきた。そしてこの地位に就いたのだ。
 
 佐多の上司から「うまく処理してくれ」との依頼があったおりに、富士商会は使いがっての良い会社となる、はずだった。
そして佐多が上に行けばいくほど、富士商会にもうまみが出てくる。
2、3ヶ月に1度の割合で佐多が持ち込む、銀行作成のマル秘文書である取引先の決算書そして借り入れ稟議書などは、営業をかける上で重要ものだ。
他社よりはやく情報が入ることが有利なことは自明の利だ。

 珍しく在室している小夜子の部屋から、ひそひそ話がきこえてくる。
あれほどに飾りたてていた前室とちがい、こんどの部屋は地味で質素だ。
こののち誰の部屋になるかもわからぬし、いつまでいるかもわからない。
早晩この部屋ともわかれる予感があるのだ。
なので小夜子の趣向での飾りたては、ムダになるとかんがえた。   
ただ1点、武蔵の愛用したソファだけは運び入れた。

 その部屋で小夜子ひとりのはずなのに、小声での会話がきこえてくる。
幹部連――五平、竹田、そして徳子たちは、それぞれ自席についてる。 
服部はもちろん営業にでかけている。
部下のひとりが新規開拓のお客をつかみかけているということで、珍しく小夜子ではなく服部に同行をもとめた。
女ごときに、という古いタイプの経営者で、五平が社長に就任したということで、
「話を聞いてやろう」ということになった、創業が明治3年の老舗企業だった。

 



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