一
「お父さん、あたしのこと、どう言ったの。」
肉を頬張りながら、怒りの言葉を武蔵にぶつける。
「うぅむ。やっぱり、美味しいわ! お肉が、全然違うのよね。
だから、あたしをどう紹介したの?」
「おいおい、食べながらじゃ怒ってるのかどうか分かんないぞ。」
苦笑いしながら、武蔵が受ける。
「怒ってるに決まってるでしょ。」
「ハハハ、まぁそう怒るな。高井の早とちりなんだから。」
「そういう言い方したんでしょ? うわぁ、このじゃがいも、ホクホクしてる!」
「小夜子、どうも調子が狂う。食べ終わってからにしろ。」
「そうね、そうするわ。
あぁ、でも、ほんとに美味しいわ。
お父さん、ずるい!」
「なんでだ?」
「だって、いっつも食べてるんでしょ? だから今夜は食べないんでしょ?」
「俺の嫁さんになったら、毎晩でも食わせてやるぞ。うん? どうだ、なるか?」
「うん、なるなる、なんて言うわけないでしょ。
正三さんのお嫁さんになるの。
そして、アーシアと暮らすの。」
あっけらかんと言う小夜子に、武蔵は耳を疑った。
二
「ちょっと待て。
正三くんの嫁さんになって、アーシアと暮らす?
アーシアって、誰だ?初耳だな。」
「アーシアは、アナスターシアと言うモデルさん。
世界中を旅してるの。」
「世界を旅するモデル?」
「そう! 人気があるの。
あたし、前にあのデパートに来たの。
で、あたしもモデルとしてお手伝いしたの。
それが縁で、アーシアの妹になったってわけ。分かった?」
「デパートに来て、その時、ショーをやっていたのか?」
「そうなの、偶然だったんだけど。
ホントは、ジャズ演奏を聞きに来たのよ。」
「ジャズ? 小夜子はジャズが好きなのか?」
「知らなかった?
英語の勉強もだけど、ジャズを聞きたいというのもあるの。」
「どうして早く言わないんだ。
連れてってやろうか、本場のジャズが聞けるところに。
日本人は聞けないぞ。」
「えぇ! ほんと、ほんと、ほんと?
約束だよ、絶対だよ。」
身を乗り出して、武蔵の前にナイフを振り回す。
「おいおい、危ないじゃないか。」
「ごめんなさい。
で、いつ? 明日? 明後日?」
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