三
源之助は佐伯本家へ連絡を取り、小夜子の居場所を調べるよう要請した。
佐伯家からすぐさま茂作翁の本家へ問い合わせがあり、
渋る茂作翁だったが、本家からの詰問には答えざるを得なかった。
その翌日、省内の源之助の元に連絡が入った。
「ふむ、ふむ。加藤ですな?
で、どこへの勤め人ですかな?
ほう、ほう、分かりました。
なぁに、大丈夫です。
正三にはきつく申し付けました。
もう、一切会わせませんぞ。
小夜子なる娘にも、もちろん因果をふくめさせます。
はい、こ安心ください。」
源之助は弁護士に全てを任せる気でいたが、
正三があれ程にこだわる小夜子に会ってみたくなった。
とりあえず電話を入れて来訪の意思を伝えた。
しかしそこに小夜子は居るはずもなく、
富士商会へ就職したと聞かされた。
加藤も、まさか武蔵宅へ転がり込んだとも言えず、
会社の寮に入ったらしいとの返事をした。
“ほう、とりあえずはまともな生活を送っているのか……。
まぁ、正三が惚れたという娘だ、
そうであってくれなくては困るというものだ。”
と、受話器を持ったまま頷く源之助だった。
翌日の午後に、源之助は富士商会へ電話をかけた。
「はい、富士商会でございます。」
「あぁ、そちらに竹田小夜子なる女性が勤務していると思うのですが、
電話に出していただけますかな。」
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「こちらは、郵政省の佐伯源之助というものです。」
「少しお待ちください。」
四
葉巻を燻らせながら、苛立ちを隠せない源之助だった。
待たされるという経験のない源之助は、受話器を叩き付けたくなった。
“このわしを待たせるとは、どういうことだ!”
「お待たせいたしました。
申し訳ございませんが、当社にはそのような者は在籍しておりません。」
予想外の返事に、源之助は怒りが爆発した。
「在籍していないとは、どういうことだ!
貴様、民の分際でこのわしを愚弄する気か!
女のお前では分からん!
上司を出せ、上司を。」
いきなりの剣幕に恐れをなした浪子だったが、
あいにくのことに皆が皆出払っていた。
いつもならば居る五平でさえ、今日に限って外出していた。
「申し訳ありません。
皆、出払っておりまして。
後ほど連絡させますので、連絡先をお教え願えますでしょうか。」
必死の思いで応えるその声に、源之助も平成を取り戻した。
「まぁ、留守では仕方がない。
お嬢さん、怒鳴ったりして悪かったね。
いい、いい。
又、かけ直すことにしょう。」
「帰りましたよ、浪子さぁん。」
素っ頓狂な声で、五平が立ち戻った。
「専務、大変だったんですよ。」
浪子が半ば涙声で、訴えた。
「なんだい、なんだい。
一体全体どうしたのかねえ、と、きたもんだ。」
浪子の変事には気付かぬふりで再度問い質した。
浪子は源之助からの電話を、多少誇張して伝えた。
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