(三)
「さてと。まずは、奥さんも一杯。」
と、盃を渡した。
「失礼、お名前を聞いていませんでしたな。」
盃に口を付けた千夜子。
一気に飲み干して、答える。
「あら、それは失礼しました。
松尾、千夜子と申します。
千夜一夜の千夜子でございます。
親がそんな物語りを意識してのことかは分かりませんが。」
「そうですか、千夜一夜物語りから……。」
「社長さま、違っておりましたらごめんなさい。
このお店に、何か便宜をおはかりで?」
「どうしてそう思われます?」
「はい。言葉遣いが、他の方へとはちと違うように聞こえましたので。
下賎な言い方をしますれば、下手に出られているような。」
「ほう。鋭いですな、さすがに。
細かいところに気が回っておられる。
松尾さんは、客商売が天職のようだ。
以前、ちょっと。」
千夜子の酌を受けながら、酒がすすむ武蔵だ。
「ありがとうございます、なによりのお褒め言葉ですわ。
社長さま、千夜子とお呼びくださいな。
社長さまには、そう呼んでいただきたいですわ。」
“さぁ、この粉かけが分かるかしら?”
“この女、誘ってるか? 名前で呼べとは。
然も、千夜一夜なんぞを持ち出して。
しかし色香たっぷりの女だ、久しくお目にかかってない。”
(四)
「社長さま。
本日はお忙しいところを、ありがとうございます。
更には、このような過分なもてなしまで頂きまして。」
居住まいを正して、座布団から降りた千夜子。
お辞儀の折の襟足が悩ましい。
「とんでもない! こちらこそ、ご迷惑をかけました。
本来なら、こちらからお礼の連絡をせねばならんのですから。
まったくお恥ずかしいことで。」
「それにしましても、お可愛らしい奥さまで。
でも驚きましたわ。
たかがモデル如きにあれ程入れ込まれるとは。
あっ、失礼しました。
言葉が過ぎまして。」
「いやいや、良いんですよ。
まだ、ネンネですから。
なりは大人ですが、まだ夢見る少女でして。
あのモデルと世界を旅するなどと、夢物語りを。」
「羨しいですわ、それは。
あたくしなんか、日々の暮らしに追われてます。」
武蔵の盃が空になると、すぐに千夜子の手が伸びる。
勢い武蔵の酔いも早まりそうだ。
“おっ、来たな。
大丈夫! あんたは信用できる。
出してやるよ、たっぷりと。
別の物も出させてくれると嬉しいが……”
鼻の下が伸びてはいないかと、ちと気になる武蔵だ。
「さてと。まずは、奥さんも一杯。」
と、盃を渡した。
「失礼、お名前を聞いていませんでしたな。」
盃に口を付けた千夜子。
一気に飲み干して、答える。
「あら、それは失礼しました。
松尾、千夜子と申します。
千夜一夜の千夜子でございます。
親がそんな物語りを意識してのことかは分かりませんが。」
「そうですか、千夜一夜物語りから……。」
「社長さま、違っておりましたらごめんなさい。
このお店に、何か便宜をおはかりで?」
「どうしてそう思われます?」
「はい。言葉遣いが、他の方へとはちと違うように聞こえましたので。
下賎な言い方をしますれば、下手に出られているような。」
「ほう。鋭いですな、さすがに。
細かいところに気が回っておられる。
松尾さんは、客商売が天職のようだ。
以前、ちょっと。」
千夜子の酌を受けながら、酒がすすむ武蔵だ。
「ありがとうございます、なによりのお褒め言葉ですわ。
社長さま、千夜子とお呼びくださいな。
社長さまには、そう呼んでいただきたいですわ。」
“さぁ、この粉かけが分かるかしら?”
“この女、誘ってるか? 名前で呼べとは。
然も、千夜一夜なんぞを持ち出して。
しかし色香たっぷりの女だ、久しくお目にかかってない。”
(四)
「社長さま。
本日はお忙しいところを、ありがとうございます。
更には、このような過分なもてなしまで頂きまして。」
居住まいを正して、座布団から降りた千夜子。
お辞儀の折の襟足が悩ましい。
「とんでもない! こちらこそ、ご迷惑をかけました。
本来なら、こちらからお礼の連絡をせねばならんのですから。
まったくお恥ずかしいことで。」
「それにしましても、お可愛らしい奥さまで。
でも驚きましたわ。
たかがモデル如きにあれ程入れ込まれるとは。
あっ、失礼しました。
言葉が過ぎまして。」
「いやいや、良いんですよ。
まだ、ネンネですから。
なりは大人ですが、まだ夢見る少女でして。
あのモデルと世界を旅するなどと、夢物語りを。」
「羨しいですわ、それは。
あたくしなんか、日々の暮らしに追われてます。」
武蔵の盃が空になると、すぐに千夜子の手が伸びる。
勢い武蔵の酔いも早まりそうだ。
“おっ、来たな。
大丈夫! あんたは信用できる。
出してやるよ、たっぷりと。
別の物も出させてくれると嬉しいが……”
鼻の下が伸びてはいないかと、ちと気になる武蔵だ。
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