昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十六) 五と六

2012-09-23 11:37:40 | 小説
(五)

「実はご相談と申しますのは、奥さまがお使いになってらっしゃるシャンプーの件でございます。

あたくしにお分け頂けないものかと、思いまして。」

「はぁ? シャンプー、ですか? 
ハハ……、こりゃ失礼。
思いもよらぬことでしたので。」

拍子抜けしてしまう武蔵だ。

思いも寄らぬ話に、つい腹を抱えて笑ってしまった。

「髪は、女の命でございます。
美しい髪は、永遠の願いなのでございます。」

真剣な眼差しで武蔵に迫る、千夜子だ。

「そんなものですか? 
男の僕には、分からんことですなあ。」

“こいつは驚いた、金の無心じゃないのか。
参ったぞ、こりゃ。
当てが外れたな。”

「お恥ずかしい話でございますが、同業者が増えてまいりまして。
何か特色を出さないことには、じり貧でございます。

パーマネントの機械を入れてはおりますが、これとて他でも……」

「なるほど。厳しさは、どちらも同じですな。」

千夜子の切実な声に、武蔵も無節操な考えを捨てた。
盃を置いて、進める千夜子に手を振った。

「はい。そんな折りに、奥様の素晴らしいおぐしに出会いまして。
で、お使いのシャンプーをお聞きしたようなわけでして。」

打って変わって、武蔵が射るような視線を浴びせてくる。
千夜子もたじろぐことなく、視線を返す。



(六)

「分かりました、お譲りしますよ。
どうです? いっそ、共同購入を他の店に持ち掛けられては。

千夜子さんには、口銭として売り上げの三分、いや五分差し上げましょう。
如何です?」

“どうだい、豪気だろうが。
通常、三分のところを五分だとしたんだ。

あの熱海の女将には、三分だからな。
飛びついてくるか?”

「有り難いお申し出でございますが、あたくしの店だけというわけには? 
もちろんある程度の量は、引き取らせて頂きます。

と言いますのも、他のお店と違う面を持ちたいものですから。
二、いえ一年で結構でございます。

まずあたくしの店で評判を取りまして、その後ということでは? 
その方が、結局は社長さまにもおよろしいかと思いますが。」

意外な返事に、武蔵も感心せざるを得ない。
目先の利益にくらむことなく、将来を見据える術を持っている千夜子と思えた。

“これは意外に女傑だ。
色恋抜きでも、付き合いたい女だ。”

「なるほど、なるほど。
そうですな、そうしますか。

いや、共同購入の折には、月に一度でもお会いできるかと、少し期待したものですから。」

やはり未練の残る武蔵ではあった。
生来の浮気癖は、小夜子を娶るからとて消えるものではない。



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