昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

狂い人の世界 [第一章:少年A]

2020-05-12 08:00:26 | 小説
神 =そうよの、あの時は驚いた。わしに問い掛けることもなくじゃった。
   傲慢そのものじゃ。まあその後、彼の国にもお灸を据えはしたが。
閻魔=お灸と申されましても、今では唯一の超大国として、君臨しておるではございませんか。
   その傍若無人たるや……。実に嘆かわしいことで。

 神さまにはご自慢のおひげのようにも見えますが-どうやらあの水戸黄門を意識されているご様子で、時折その髭を下に流すように触られます。
しかしどうひいき目に見ても、単なる無精ひげとしか思えません。
あの閻魔大王さまにもそう映っているらしく、下を向いて苦笑いをされていますよ。

神 =まあ、そう責めてくれるな。
   あまり人間世界に干渉することも、良くないことじゃでの。
   といって、放っとき過ぎたかもしれんがの。
   これから先、人間どもが今少しの反省をするならばと、
   人間世界で言う異常気象を起こさせておるのじゃが。
   気付く者もおれば、目をそらす輩もおるし、のお。困ったものじゃて。
   で、どうかね? 先ほどの、少年のことは。

閻魔=申し訳ございません、話が逸れてしまいました。
   少年の住む日本という国は、先の敗戦後に価値観が一変したのでございます。
   道徳観も、百八十度の大転換でございます。お分かりいただけますでしょうか?

 慌てて顔を上げられましたが、わたしにはなにかしら、とってつけたような物言いに聞こえました。
が、神さまは「うんうん」と、満足げに頷かれています。
失礼ながら、他の皆さんにその毎日をかしこづかれているせいでしょうか、それとも下々の者たちゆえだからとお思いのせいでしょうか、少々とげが感じられる言葉にも気付かれないようでして。

神 =なるほど。お前は、この少年は狂っていると、言うのだね?
閻魔=実のところ、困っております。
   今の時代においては、狂人と断じて良いと思うのでございますが。
   ただこの少年の場合、そう断じて良いものかどうか、判断に苦しんでおります。

神 =お前も、かね。わしも今、迷っているのだ。
   地獄行きか、それとも天国への扉を開けてやるべきか―― とな。
   一つ、前例のないことだが、少年の言葉に耳を傾けてみることにしようかのお。


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