昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十七)の六

2013-03-29 21:26:59 | 小説

(六)

「これは、恐縮です。
竹田茂作さまのお宅にお伺いしたいのですが、
小夜子が車酔いしまして。
で、止む無く……」

先を急ぐからここでと、立ち入ることを拒んだ。

「それじゃわしが、案内しましょうかの。」
と、繁蔵が村長を押しのける。

「そうですか……。
それじゃお帰りにでも、立ち寄っていただけますか。」
と、未練たらたらの表情を見せた。

「村長、わたしがお供します。」

ここぞとばかりに、助役が手を上げた。
別段、役場の人間がしゃしゃり出ることでもないのだが。

「おうおう、そうしてもらおう。
助役さん、それじゃ車を出してくれるか?」
と、繁蔵が呼応する。

「山田くん、すぐ車を回すように。」

眉間にしわを寄せる村長を後に、二台の車が走る。

「助役の奴、でしゃばりが過ぎる。」

はき捨てるように呟くと、固まっている職員たちを怒鳴りつけて部屋に戻っていった。

「いいわねえ、玉の輿よね。」

「ほんとよね。言っちゃなんだけど、正三さんも勝てないわよ。」

「それにしても、都会に行くとあんなに変わるものなのかしら。」

大きくため息を吐いて、女子職員たちが席に戻った。


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