昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十七)の五

2013-03-28 19:40:18 | 小説
(五)

“こんな田舎にタクシーとは珍しいことだ…
ま、まさか!”

「茂作の家かね? 茂作は、わしの弟じゃが…。
どちらさんですかな、お宅さんは。」
と、車の中を覗き込んだ。

「お、お前。小夜子じゃないか!」
と、大仰に声を張り上げた。

キョトンとする富男に向かって、
「富男、小夜子が帰ってきたぞ!」
と、役場内に聞こえるように更に大きな声を上げた。

車中に小夜子を見つけたことで、役場内は大騒ぎになった。
「小夜子さん?えぇぇ、女優さんみたいじゃない。」
「あの方が、ひょっとしてお婿さん?」

蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。
車を取り囲む職員たちに囲む職員たちに、村長の一喝が飛んだ。

「こらあ! 席に戻らんか、ばか者!」

ドアが開き、武蔵が降り立った。
と同時に、大きな拍手が起きた。

「いゃあ、どうもどうも。
お疲れさまでございます。
さぁさぁ、中にどうぞ。」

大仰に腰を曲げ、もみ手を繰り返す村長の様に、職員の中から失笑が漏れた。
普段の後ろに倒れんばかりの踏ん反り姿からは、およそ想像のできないことだ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿