夜学授業の終わりを告げる チャイムの音が
こんな遠くまで 聞こえてくる
風に乗って 美しく響いてくる
昼に働き 夜に学ぶ 辛く苦しい道
“がんばってるね!”
優しく声をかけられる
黙って 頷く僕がいる
早く大人になりたい なりたい大人に……
君を受け止められる大人に 早くなりたい……
……なりたかった
=背景と解説=
ようやく気付いたこと。
失った、一人の女性。
少し上の、年上の女(ひ)性(と)。
看護学校に通ったせいで、高校入学が遅れた女性。
「おともだちが欲しかったの」
淋しげに教えてくれた。
なにがあったのか、その折りには聞くことがなかった。
多数の女友だちの中の、ただのひとり。
その付き合いがどんなきっかけだったのか、まつたく思い出せない。
クラスメートではあった、日記にも書いていない。
夏休みのこと、ただ、一行あった。
「キスした」
そして卒業式を迎える前年の大晦日の約束。
「御嶽山のご来光を観たいね」
そんな彼女のことばに「いいよ、迎えに行くよ」と答えた。
御嶽山の何たるかも知らず、冬場の恐ろしさも知らず、ただ新年を二人で迎えたいという、そして、そして……。
彼女の真意に気が付かずに、社交辞令的に答えていた。
それが、冬休みに入る日の日記。
忘れていた。
それでも、大晦日に友と麻雀に興じていたとき、突然に思い出した。
彼女の実家も知らず、実家の電話番号も知らず、連絡のとりようのないことに、その時気が付いて……。
急にこみ上げた感情、喉を熱くする液体が胃の中に逆流した。
“メンツが足りないんだ、しかたなかっぺ”
そして、二十歳の年に。
卒業後に橿原市の病院に移った彼女に、帰省中に逢えた。
「二十四までに結婚しなくちゃならないの」
何度かのお見合いの後に決まったとか。
「あのときに逢えていたら……」
それが最後の言葉だった。
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