昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~地獄変~ (十七)銀蝿などと!

2024-06-19 08:00:18 | 物語り

断じて許すことはできません。
八つ裂きにしても足りない男どもでございます。
しかしもうわたしには気力がございません。
お話しする気力が、ございません。

もう、このまま死にたい思いでございます。
まさしく地獄でございます。
……地獄?
そう、地獄はこれからでございました。

じつは不思議なことに、男どもには顔がなかったのでございます。
もちろん、その男どもをわたくしは知りません。
見たことがありません。
だから顔がない、そうも思えるのではございます。
しかし、……。

そうですか、お気づきですか?
ご聡明なあなたさまは、すべてお見通しでございますか。
”申し訳ありません! 申し訳ありません!!”
わたしは、犬畜生にも劣る人間でございます。

“殺してください、わたしをこの場で殺してください。
この大罪人の、人非人を!”
そうなんでございます、男どもは、すべて、わたしの顔を持っていたのでございます。
……、この、わたくし目の顔を……持っていたのでございます。 

蝿が飛んでおります、銀蝿でございます。
あの野糞にたかる、汚わらしい銀蝿でございます。
ぷーんぷーんと音も五月蝿く、飛び交っております。
死人にも似たわたくし目の周りを、飛び交っております。
手で払いのけるのでございますが、中々に立ち去ろうと致しません。

立ち去らない?
虫けらに立ち去らないなどということばを使うわたし、ふふふ、気が狂れたのかもしれませんな。
実は、じつは、その銀蝿……。
どうぞ耳をふさいでくださいまし、後生でございますから。
おぞましいことに、このわたくし目の顔を持っているのでございます。
何と、なんと言うことか、このわたしが、銀蝿などと!



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