昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(三十四)の一と二

2012-04-07 19:13:15 | 小説



久方振りの、武蔵と連れ立ってのお出かけだった。
思わずスキップを踏みたくなる。
“男女七歳にして席を同じうせず”、やら
“三歩下がって影踏まず”と、教えられた世代の二人だ。
小夜子が武蔵と腕を組むなど、ひんしゅくものだ。
が、武蔵は全く意に介さない。
むしろ喜んでいる。
“正三さんなら、顔を真っ赤にして、外すでしょうね。”
武蔵と正三を比べる、小夜子だ。

「小夜子、ハイヤーにするか?」
「いいわょ、電車で。」
「小夜子は良くても、俺がなぁ。どうも人込みが嫌いでな。」
「なに、可愛いこと言ってるの。
分かったぁ、いろんな人泣かせてるから、怖いんでしょ。
大丈夫だって!この小夜子さんが守ってあげるって。」
ポンと胸を叩く。
「そうか、小夜子が守ってくれるか。
そいつは、心強いぞ。」
「ふふふ…。」
他愛もない会話が、小夜子の気持ちを高ぶらせる。






電車内はまばらな乗客ではあったが、やはりのことに武蔵は敬遠された。
しかし武蔵は、まったく意に介さない。
小夜子の方に、少しの後悔が生まれ始めた。
“やっぱり、腕、組むんじゃなかった。
でも、今さら外すのは癪だし。”
小夜子の腕に力が入る。
「どうした?」
「うぅん、べつに。」
遠巻きにする乗客たちが、怪訝な視線を送っている。
小声ながらも、武蔵を非難し合っているらしい二人連れの有閑マダムもいた。

「さ、降りるぞ。」
「はい。」
夢想から引き戻された小夜子だ。
「どうした?今日は変だぞ、小夜子。
まだ心配事でもあるのか?」
素直な返事など、小夜子には似つかわしくない。
「何でもない。」
力ない声で答える小夜子だ。

「さぁ、着いたぞ。あのデパートだ。」
武蔵が指指す先には、
あの、小夜子の人生を変えたと言っても過言ではない、あのデパートがあった。
「えっ!あのデパート?」
「嫌か?だったら他の所にするか?」
「うぅん、良い!あそこで良い。
うぅん、あそこじゃなきゃダメ!」
顔を輝かせて言う、小夜子だった。
「なんだなんだ、知ってるデパートか?」
「何でもない!」
隠す必要もないことなのに、何故か口をつぐんでしまった。


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