八月も終わりの日曜日のきょう、彼女に連絡をとらなかったことが悔やまれる。
おなじ会社とはいえ、ぼくは現場で、彼女は事務所。
ほとんど顔をあわせない。
連絡方法は、いつも彼女から。
連絡メモをとどけるふりをしてのこと。
最近はタイミングがわるく、いつもぼくのそばにだれか居る。
内緒の付き合いだからなあ。
ぼくとしては、だれに知られても構わないけれど、彼女がいやがる。
やはり、年上だということを気にしているのか?
それとも、ぼくなんかとの事を知られたくないのか。
ぼくのポケットの中には、千円札が二枚ある。
すこし、金持ちの気分だ。
チューインガムも入っていた。
もちろん、口に入れた。でも、空があいにくのくもり空のせいか、かみごこちが悪い。
生暖かいコーラを飲んだときの不快感だ。
長くポケットに入れていたせいかも?
なんの変わり映えもしない町並み―タバコ屋・八百屋・そしてパン屋。
商店街の喫茶店にでも、行こうとしていたんだ。
そんなとき、うしろからぼくを呼ぶ声が……・。
えっ、彼女? まさか! と半信半疑にふりむく。
いぶかしげな表情だっただろうぼくの目に、たしかに彼女が見えた。
ニッコリと満面に笑みをたたえて、彼女がかけよってくる。
いままでの不快さもどこへやら、ぼくの顔はニヤけたと思う。
でもホンのもう少し早く出かけていたら、彼女に会えなかったかも?
喫茶店に入りこんでしまい、すれちがうことに……。
「君の名は」になるところだった。
危ないところだった。あの喫茶店のことは、彼女は知らないもんな。
そう考えると、ゾッとするよ。
でも、きょうのデートは最高に楽しかった。満足!
「智恵子抄」の映画が良かったこともあるけど、なんだか、彼女とのきょりがグッと縮まったような気がする。
ピッタリとくっついて、一心同体になったような気がするんだ。
だって立ち見だったんだし、すごい人だったし。
押されおされて、あやうく離ればなれになりそうだったし。
そうだよ!
とちゅう、ふと盗み見した彼女のほゝが濡れていたんだ。
大きなつぶの涙が、音が聞こえでもするように、ツツーッとほゝを伝っていたんだ。
ぼく自身が泣けそうだったから、嬉しい。
帰りが遅くなってしまったので、彼女を自宅まで送った。
でも、なんど町内を回ったことか。
話がとぎれそうになると、また新しい話題が出てくるんだ。
おかげで、こんやは足のうずきで眠れそうにない。
そうそう、夜空の星がまばたいて――光ったり消えたりして、まるで、星の女神さまのウィンクのようだった。
なんど、衝動にかられたろう。だけどいちどの衝動に負けて、サヨナラになるのは嫌だ。グッとこらえた。
接吻、あゝ!!
彼女のくちびるに触れる。柔らかいくちびる唇にそっと……。
そして、薄くくちびるが開き、ふるえる歯がちいさく音を立てあう。
その音に恥じらいを感じて、目を閉じたままで……・。
ただ、触れ合ったままに。
どうしょう、いつ離れていいものかわからない。
そのまま……の状態が……。
そのうち、息苦しさに耐えきれなくなり、鼻で息をしてしまうだろう。
そしてそれにはじかれるように、どちらからともなく離れる。
きっと、耳たぶまで真っ赤になっている彼女はかわいいさ。
そしてしっかりと抱き合って、こんどは深くふかくキスをする。
お互いをつよく感じ合う。
こんやは、ねむれそうにもない……
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