昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (九)

2024-11-16 08:00:44 | 物語り

「ほら、みろ。持ってるだろうが、田中さんよ。
嘘はいけないよ。ひとつうそをつくとね、際限なくつきつづけなくちゃならないんだよ。
そんなこと、出来るわけないよね」
 猫なで声で、優しくさとすように言ってきた。
「ほんとなんです、インターネットはやってないんです」
 ひっしの思いで、反論した。よわよわしい声ではだめだ。
もっとはっきりと説明して、キチンと分かってもらわねばと、おのれに言いきかせた。
しかしそう思えども、ふるえ気味のこえが出るだけだった。

「分かった、わかったよ。信用してやるよ、田中さん。
パソコンは使ってないんだね。けどさ、ケータイ持ってるでしょ?」
「携帯電話ですか? はい、持ってます」
「じゃさ、たとえば、お子さんとは電話ではなしてる? 
正直に言ってよ、ウソはだめだよ」
 あいての静かなこえに、わたしの興奮状態もすこしおさまってきた。
しだいに手のふるえもおさまり、むねの動悸も平常にもどりはじめた。

「い、いえ。子供たちとは、電話では話していません」
「うん、うん。そうだよね。、
電話でははなしなんかしないよね、今どきは。
正直に答えてくれたね、いいことだよ。
でもさ、メールのやり取りぐらいはしてるでしょ?」
 このときに、相手がなにをいわせたいのか、気づくべきだった。
しかし蜘蛛の巣にかかった蝶のように、もがけばもがくほど身うごきがとれなくなっていった。
「は、はい。子どもやら友人たちと、ほぼ毎日、メールのやり取りはしています」
つい見栄をはってしまった。月にいちどあるかないかの、メールのやり取りだ。

「田中、…じゃなくて、ま、いいや。
この歌、おぼえてる? ♪だよねー、だよねー♪」
 とつぜんに相手が歌いだしたのにはおどろいた。
とどうじに、腰にピリピリとした痛みをかんじはじめたわたしは、思いきって告げた。
「すみません。ちょっと腰が…。いすをもってきますので」

 



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