(二十九)
裏側に降りていくと、急に人がドバアっと現れました。
ばらけていた観光客も、ここでは集まってきます。
テルトル広場って言ってましたかね、絵描きさんたちが大勢居ます。
似顔絵もですけど、自作の絵をこれみよがしに並べてありました。
値段を見てびっくり! 200とか300ユーロとありました。
ちょっと手が出ません。
この分だと、似顔絵なんかも高いのでしょうね。
いえいえ、遠巻きに見ているだけで近づきませんでした。
ただですね、この広場ではないところで、似顔絵を商売にしている絵描きさんも居ました。
正規の絵描きさんだけが、テルトル広場内に場所を構えられるとか。
絵描きさんにも、正規、非正規があるんですね。
というより、技量の問題でしょうけれどね。
ガイドさんの話によると、もぐりの絵描きだからとバカにはできないらしいですよ。
恨めしげに話してるように聞こえたのは、わたしだけでしょうかね。
「通勤には、キャディラックですから。
この下の駐車場を見ると、たーくさんありますよ。」
ちょっと待って下さい。何やら、若い人たちが騒いでいます。
どうやら、トイレに駆け込んだグループみたいです。
そのうちの一人が、ジプシー軍団に捕まったようです。
六、七人の若い娘さんたちに取り囲まれて……
なになに? 体をグイグイと寄せてきて、なにか叫んでいたとか。
なんと羨ましい経験を! (いやこりゃ、失言でした)
結局のところ、なんの被害もなく脱出できたらしいです。
手荒な態度に出ると、親方がすっ飛んでくるらしいですよ。
ガイドさんからの情報が役に立ったようです。
正規の絵描きさんです。何百ユーロです、一枚。
カフェテラス
お店の壁際にあった椅子でひと休みしながら、パチリ!です。
おばちゃんが歩いてきているのには、まるで気が付きませんでした。
少ししたら、店員らしきアラブ系の男性が来ました。
慌てて、「ソーリー、ソーリー」と、立ち上がりました。
集合がかかりました。と同時に、ざーっと雨が。
大きな木の下に入り込みましたが、ザーザー降りです。
ただありがたいことに、すぐに小降りになりました。
「急いで下りましょう」
だめです、また降り出しました。真っ黒な雲がおおっています。
「ケーブルカーの屋根下に入りますよ」
切符売り場らしき小さな建物がありますが、誰も居ません。
とにかく雨宿りです。
くだんのジプシー軍団が駆け込んできました。
「おっ!」
彼女らにしと身構えましたが、何ごともなくです。
考えてみれば、彼女らにしても雨宿りははしますよ。
ですが、触らぬ神に祟りなしとばかりに、少し移動しました。
物知り顔で「他にエネルギーをふり向ければいいのに…」と耳にしますが、他にやることが見つからず、見つけられずに、この道に入ってしまうのじゃないですかね。
ある意味、彼女らも可哀相なものですよ。
差別といったものが、やっぱりあるんじゃないですかね。
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