昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百五十一)

2024-11-26 08:00:31 | 物語り

 朝の10時に出社し、夕方は4時に退社する。
朝の出勤時には「おはよう! きょうもがんばりましょうね」と、明るく声をかけている。
社長室にはいると、徳子が「昨日の売り上げは、荷の入荷は、」と説明にくる。
うんうんと頷きつつも、特段なことのない毎日で、「ありがとう」のひと言で終わる。

 その後は、来客があれば社長室で応対し、なければ閉じこもっている。
余ほどのことがなければ、外回りすることはなくなっている。
新規開拓も一段落し――というより、「これ以上販売先を増やすな」と、耳を疑うような指示がでた。

「弱肉強食です」と言いはる服部にたいし、竹田が冷厳な事実をしめした。
「これ以上の商品配達はムリだ」。前日に荷物を積みこみ、翌朝に交通渋滞のはげしいなかを、複数台のトラックが出発する。
しかし夜の七時をまわっても届けきれない。
「もう店を閉める」、「受け入れ時間をすぎた」と、苦情の電話が鳴りっぱなしだ。
米つきバッタのようにあやまりつづける事務員たちが、苦言を呈しはじめた。
さらには配達員たちのなかに、体調をくずす者がでてきてしまった。

他社のなかで、「同一商品で同一価格なら、富士商会で」と、暗に値下げを要求されはじめている。
ここまでくると、「芸者営業だ」との非難の声を無視するわけにもいかない。
なにかの拍子に、他業者の団結をまねき、袋だたき状態になりかねない。
商慣習としても、現状が異常なことは、五平も重々わかっている。
で、小夜子の禁足が決まった。

そんななかひと月にいちど、武士を連れてくる。
わっと取り囲み、社員たちが大騒ぎをする。
そのあまりの歓待ぶりには、武士が泣き出してしまった。
徳子たちのぎこちない抱き方をされるせいか、泣き声のトーンがあがる。
となると小夜子のあやしだけでは収まらない。

そんなとき、竹田があやしてみた。
武士を抱いたまま椅子にすわり、電卓を与えたところ「キャッキャッ」と大喜びした。
「さすがに、未来の社長だ!」と、こんどは社員たちがキャッキャッ状態になる。
そして五平の「さあさあ、仕事だ!」が、宴の終了を告げた。

 自席に戻ろうとした徳子にたいし、「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、あとでいいから部屋に来てくれない」と声をかけた。
日常の業務報告ならば、当然のことにこののち報告にいく。
それをことさらに、部屋まで来てくれということばに、なにがしかの悩みを抱える小夜子に気づいた。



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