昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

「祭りの夜(改)」 十

2013-06-25 22:15:50 | 小説

(十)

小さな箱の窓から井戸の中を覗き込むものだったのだが、
「さあさあ、順番をキチンと守ってよ。
さあ見えた人はお次の方が待ってるからね。
はいはい、お行儀良くお願いしますよ。」
と、せき立てられた。

水面がゆらーりゆらーりとゆるやかに揺れて、水の底に人魚姫らしき物が泳いでいるように、確かに見えはした。
その底にフィルムを映写していたのであろうが、周りが薄暗かったことも相まって、その口上の見事さに騙された。

「お父さん、見えたよ。
こうやってね、ゆらりゆらりって泳いでたよ。」
目を輝かせる幼い女の子が、嬉しそうに父親に話しかけている。

ところが、その後ろにいた小学生の高学年だろう男の子が
「あんなもん、嘘っぱちに決まってら!」と鼻高々に言った。
途端に「余計なことを言うんじゃない!」と、その子の父親に、ごつんとげんこつをもらっていた。


「はいはい。
いよいよお次は、この一座のスターさんだよ。
〇〇山という霊山にて生息していたこのへび女を…」

と、講釈する座長らしき男の話に聞き入り、〇〇山が聞き取れないことに何の疑問も持たずにいた。


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