昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(五)の一

2011-04-21 21:33:01 | 小説
兄の茂蔵は、茂作翁に負い目を感じていた。
茂作翁と相思相愛の仲だった初江を、娶っていた。
家同士の話し合いの事であり、茂蔵としては従う他なかった。
しかし、忸怩たる思いが、茂蔵の中にはあった。
分不相応に高額な物を揃える茂作翁の中に、茂蔵に対する対抗心を見てしまう。

国民服姿の茂作翁に対し、小夜子は最新流行のコートで身を包んでいる。
茂作翁にとって、孫娘の小夜子は、まさに至宝だった。
とに角猫かわいがりで、我侭一杯に育て上げた。
小夜子の欲しがる物は、何でも買い与えた。
分不相応だと詰られても、買い与えた。
幾度となく兄の繁蔵から、叱責を受けもした。
畳に頭を擦り付けて、金員の無心を懇願したことも、一度や二度ではない。

「地に足を付けた暮らしをしろ。」
そんな苦言を呈しつつも、貸し与え続けてしまった。
そんな茂作翁が、或る日を境にピタリと無心に来なくなった。
それどころか、多額の金員を返しに来た。
その出所を問い質しても、
「芽が出てきました。」と、答えるだけだった。
赤いダイヤと呼ばれた小豆相場に手を出していると聞いたのは、
暫く経ってからのことだった。


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