(十)
ホテルのロビーでの一件は、少なからず正三のプライドを傷付けた。
“確かに連絡をしなかったのは僕の落ち度だけれども、
あんな公衆の面前であれほどに罵倒されるとは。
一介の学生だった昔ならいざ知らず、今は郵政省に勤める身だ。
民を指導する立場にある僕だ。
幸い僕を知る者が居なかったから良かったものの、大恥を掻いてしまった。”
腹立たしさを抑えきれない正三だ。
未だにあの醜態が忘れられないでいた。
自席に戻りはしたものの、書類の文字が躍っている。
引出しのタバコで一服し、ようやく落ち着きを取り戻した。
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