昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (十八)もうとおい昔のように感じますが、

2024-12-04 08:00:51 | 物語り

 もうとおい昔のように感じますが、じつはつい先日なのです、はじめてお会いしたのは。
おそらくは、みなさまはお忘れでしょうがご経験があるはずでございますよ。
ほら、その人を思うだけで胸がチクチクと痛み、キューッと締め付けられる……。
そう! 恋、恋です。
ない? それはそれは、おかわいそうなことで。
この人のためならばなんでもしてやりたい。
できないことでも、なんとか叶えてあげたいと思う、まさしく恋心でございましょ?

 家庭教師のこと、いとも簡単に決まったという風にお思いでしょうが、これがなかなかに。
まずはこのところの成績の下落を詫びました。
いえ別に順位が落ちたとか、そういったことではありません。
たしかに、試験の点数は落ちてしまいました。
しかしそれはどなたもご一緒でございます。
そこで、他の上位の方たちは家庭教師が付いてると言いました。そこが違っているのだと。

「しかし女の身でそこまで勉学に励まなければならんのかね」と、父が申します。
そこでここぞとばかりに、女性蔑視の気持ちがあるのね! とかみつきました。
で、とりあえず了承がでたのです。
が、やはり男性の方と、言うのが。
しかも相手宅にお邪魔してのことですから。
いくら一子さまとご一緒だからと説明しましても。それならこちらでという妥協案を父が出してきます。
ですがそれでは……。
帝大生の家庭教師など望むべくもないと、なんども懇願いたしました。

  そして、なぜいま家庭教師というアルバイトを考えられたかということも、その理由も用意していたのです。
「ご卒業後には、留学をされたいということなのです。
もっとしっかりと勉強されて、お国のお役に立ちたいということなのです。
といって、やっぱり外国と言うことになると多額のお金がご入り用です。
全額をご両親に用立ててもらうのは気が引けるということでの、ことなのです」

 これ以上しつこく言って変に勘ぐられても困ります。
そこで最後の説得材料として、
「足立呉服店さんが信用ならないのですか? 
もうご了解はいただいてるのに。
『跡取り息子にアルバイトなどさせられない、面目が立たん』と、一旦はだめだとおっしゃられたのよ。
それに対して、三郎さまがおっしゃってくださったの。

『立派な婦女子になってもらうために、お教えしたいのです。
昨今は勉学に時間を割くことが難しくなっているのですから』。
それでやっとお許しが出たというのに。
お父さんは、小夜子がかわいくないんですね。
お店のことばかりで、正夫だけに世話を押しつけて。
恥ずかしくてなりません!」と、涙を流しながら訴えました。
あのときはおどろきました、わたくしも。
悲しくもないのに涙を流したりしまして。
女優さんになれるかしら? なんて、心内では考えていましたのよ。 
結局は、母が味方してくれまして、うまくいきました。

「お父さん。これ以上反対しますと、小夜子はお父さんが嫌いになってしまいますよ。
それに、足立呉服店さんといえば、老舗のお店です。
世間体ということもありますから、万が一なにかありましたとしても、いいお話じゃないですか」

 



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