4日(木)。昨夕、虎ノ門のJTアートホ―ル”アフィニス”で、JTアートホール室内楽シリーズ第376回「堀米ゆず子 モーツアルト核心の室内楽」演奏会を聴きました プログラムはモーツアルトの①ディヴェルティメント変ホ長調K.563、②クラリネット五重奏曲イ長調”シュタ―ドラ―”K.581の2曲です
出演はエリーザペト王妃国際音楽コンクールで日本人初の優勝者・堀米ゆず子、NHK交響楽団コンサートマスター・山口裕之(以上ヴァイオリン)、同首席奏者・佐々木亮(ヴィオラ)、第72回日本音楽コンクール第2位・辻本玲(チェロ),1982年ミュンヘン国際コンクール最高位・チャールズ・ナイデック(クラリネット)というメンバーです
自席は15列4番,左側ブロックの通路側,会場は満席です 1曲目のK.563を演奏するために堀米ゆず子がヴァイオリンを手にして登場した時,「あれが,件のフランクフルト空港で差し押さえられて戻ってきた”ガルネリ”か」と注目しました.多くの人の目が彼女のヴァイオリンに集中したのではないかと思います 堀米さん,よかったですね 1900万円もの税金を払わずに無事に名器が戻ってきて
1曲目のディヴェルティメント変ホ長調K.563は,フリーメースンの盟友プフベルクのために1788年の秋に書かれたと言われています.変ホ長調は交響曲第39番K.543に共通する,明るく華やかな楽想が特徴です.演奏は堀米,佐々木,辻本による三重奏です
第1楽章”アレグロ”を演奏する堀米ゆず子は”嬉々として”演奏していました モーツアルトはこうでなければいけません.第2楽章”アダージョ”では,チェロの深い響きが印象的でした.第3楽章”メヌエット・アレグレット”は愉悦に満ちたアンサンブルが展開しました 第4楽章”アンダンテ”はチロル民謡から取られた主題と変奏で,第5楽章”メヌエット・アレグレット”は舞曲,ヴィオラの独奏が光ります.そして第6楽章”アレグロ”でフィナーレを迎えます
どこかで「弦楽四重奏より弦楽三重奏の方が難しい」という文章を読んだことがあります.そうであるならば,この3人の奏者は相当難しいことを実に楽しげにやってのけた,と言えるでしょう このコンサートは堀米ゆず子が選曲し演奏者を選んだのですが,3人とも演奏するのが楽しくて仕方ないといった姿勢がよく伺えました
2曲目のクラリネット五重奏曲イ長調”シュタードラー”K.581」は1789年の秋に書かれた曲ですが,クラリネット奏者アントン・シュタードラーの名人芸に刺激を受けて作曲したと言われています モーツアルトはこの後,1791年(死の年)秋にはもう1曲「クラリネット協奏曲K.622」という不朽の名作を書いています
奇しくも,2曲とも秋に作曲されました.まさに秋の今,聴くのにふさわしい曲です
5人の奏者は舞台に向かって左から堀米,山口,辻本,佐々木,ナイデックという態勢を取ります.ナイデックが変わった形のクラリネットを持っています 全体が茶色で,マウスピースの部分が黒色です.一番の特徴は先端が曲がっていてL字型になっていて,まるで大きなパイプのような形です この楽器について本人が英語で説明して堀米さんが通訳しました
「これはモーツアルトが生きていた頃の楽譜に書かれていたクラリネットの絵を元に再現した楽器です.ボディが古楽器風で,バルブがモダーンな造りになっています.ラトヴィアのリガで見つけました」
あらためてナルディック氏の略歴を見ると「イエール大学で文化人類学を学び・・・・・ピリオド楽器の演奏や原典版の研究に取り組んでいる」と書かれていました.なるほど,変わった形の楽器を”発見”して持っているわけです
クラリネット五重奏曲はクラリネット協奏曲とともに,モーツアルトが残した音楽史上最高の遺産です第1楽章”アレグロ”,第2楽章”ラルゲット”,第3楽章”メヌエット”,第4楽章”アレグレット・コン・ヴァリアチオー二”から成りますが,とくに第2楽章”ラルゲット”がこの曲の白眉です 堀米ゆず子のヴァイオリンとナイデックのクラリネットの掛け合いが素晴らしく,堀米がピアニッシモに近いピアノで語る,どこまでもやさしい天国的な曲想は言葉もないほど感動的でした
会場一杯の拍手にクラリネット五重奏曲の第2楽章”ラルゲット”をアンコールしてくれました.最後の最後まで満足のコンサートでした
プログラムにアンケートが挟まれていたので,”取り上げてほしい曲”として①メンデルスゾーン「ピアノ四重奏曲第1番」,②ブラームス「ピアノ三重奏曲第1番」,③モーツアルト「フルート協奏曲第2番」を挙げておきました また,”年に何回コンサートに行くか”という質問には130回と書いておきました.ちなみにこの日は124回目(昨年の年間実績と同じ回数)のコンサートでした