24日(水).昨日の日経朝刊文化欄に名曲喫茶「ショパン」の店主・宮本英世さんが「絆の重奏・名曲喫茶~東京で営み30年,客を通じて世界を知る」というエッセイが載りました
「ショパン」は1981年に中野坂上にオープンしましたが,都庁の新庁舎の工事が始まり,騒音に悩まされて91年に池袋近くの自宅の1階に移転したとのことです 実は十数年前,「ショパン」を訪ねたことがあります.地下鉄「要町」駅で降りてしばらく歩いたところにその店はありましたが,あいにくその日は定休日らしくお店は閉まっていました.この時思わず「しまった!」と叫んでしまいました
「名曲喫茶」は昭和30年代が全盛期だったようで,かつては都内だけで30軒以上の有名店がありましたが,現在は10件ほどしか残っていません
交通新聞社の「東京クラシック地図」には,要町「ショパン」をはじめ都内の「名曲喫茶」が写真入りで紹介されています 私が就職した頃は,銀座「らんぶる」,新宿歌舞伎町「らんぶる」,中野「クラシック」,渋谷「ライオン」などによく通ったものですが,今は渋谷「ライオン」以外は消えてしまいました この本では渋谷「ライオン」のほか,高円寺「ネルケン」,吉祥寺「バロック」,国分寺「でんえん」などが紹介されています 同書によると「ショパン」という名前の喫茶店は淡路町にもあるようです.しばらく「名曲喫茶」に行っていないので,散歩がてらぶらりと出かけてみるのもいいかな,と思っています
おっと,泉麻人著「東京ふつうの喫茶店」(平凡社)にも渋谷「ライオン」が紹介されています.この本に登場する喫茶店の中で私が知っているお店は神保町「古瀬戸」,銀座「ウエスト」ぐらいですが,読んでいると訪ねてみたくなるお店ばかりです
閑話休題
小沼純一著「オーケストラ再入門」(平凡社新書)を読み終わりました 小沼純一氏は1959年生まれ.現在,早稲田大学文学学術院教授を務めています
この本は第1章「オーケストラとは何か」,第2章「楽器の分類と編成」,第3章「さまざまなオーケストラⅠ~雅楽からガムランまで」,第4章「さまざまなオーケストラⅡ~ジャズ・オーケストラを中心に」,第5章「伝統の再解釈から新たな”場”の創造へ」,第6章「映画の中のオーケストラ」,第7章「オーケストラの未来」から構成されています
第1章「オーケストラとは何か」の中で,小沼氏は女性の社会進出に伴って,演奏する楽器が広がってきたことを指摘しています
「かつては”女性が脚を開いて演奏するのはお行儀が悪い”とされていたため,チェロの女性演奏家はとても少なかったものです そもそも長い間ヨーロッパのオーケストラは男性中心であり,女性演奏家は男性に比べてずっと数が少ない時代が続きました.はじめに女性演奏家が増え始めたのは弦楽器で,それから木管,金管楽器が増え,今ではトロンボーンのような大きくて肺活量の必要な楽器でも女性演奏家がいます」
これは実際に在京オーケストラを見れば一目瞭然です N響と読響はまだ男性が多いようですが,東響,東フィル,新日本フィル,シティフィルなどは弦楽器を中心に女性が多くなっています
また,アマチュア・オーケストラの演奏者の特徴を次のように述べています.
「アマチュア・オーケストラに入っている人たちの中には,オーケストラをやっていることが楽しくて,演奏を聴くのはむしろ二の次,三の次になっている人が多い 他人や他のオーケストラの演奏を聴きに行く人は意外に少ないようです・・・・・・・大学のオーケストラに入っていた人が大学を卒業して社会人になった後に,プロのオーケストラの定期会員になってくれていたら,プロのオーケストラも現在のような赤字に苦しむ状況に陥っていなかったのでは,と思うのは幻想でしょうか」
これは意外でした.アマチュア・オケの人たちは普段から熱心に練習しながら,積極的にコンサート通いをしているとばかり思っていました また,ある意味”専門バカ”について次のように語っています.
「”演奏するのは好きだけれど,他の人の演奏は特に聴きに行ったりはしない”という態度はオーケストラに入っている人たちに限ったことではなくて,ピアノを習っている人などにもあります 自分の習っている先生のリサイタルには行くけれど,取り立てて他の演奏家のコンサートに行ったりCDを買って聴いたりはしない,というような」
これは,その通りだと思います.かなり前のことですが,ピアニストの内田光子さんがレーザー・ディスクか何かでインタビューに答えていましたが「今の音大生は,自分の専門分野のことしか勉強しない.ピアノならピアノにしか興味を示さないし,他のコンサートに行ったりもしない オペラを観に行ったり,オーケストラを聴きに行ったり,もっと幅広く見聞を広めることによって演奏に幅が出てくるのに・・・・視野が狭すぎる」と嘆いていました 小沼氏の指摘も同様のことなので,時代を問わず専門バカ学生が毎年音大を卒業しているようです 不幸なことにこの人たちの就職先はほとんどゼロに近いと思われます
ほかにも興味深い指摘が示されているのですが,取り上げていくときりがないので,興味のある方は購入されることをお薦めします