4日(月・休)その2.「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015」第2日目(3日)の後半3公演について書きます
午後3時45分からホールB7で開かれた「あふれる想い~シューベルトの最晩年」(公演番号224)を聴きました プログラムは①シューベルト「弦楽五重奏曲」です。演奏はアルテオ弦楽四重奏団+ヴィオラ=オーレリアン・パスカルです.弦楽五重奏曲と言えば,たとえばモーツアルトのように弦楽四重奏曲にヴィオラを加えたスタイルが一般的ですが,シューベルトはヴィオラの代わりにチェロを加えています つまりヴァイオリン2,ヴィオラ1,チェロ2という組み合わせです.この曲の完成は1828年8~9月頃と考えられていますが,この年の11月に彼は”腸チフス”らしい病気で死去しているので最晩年の曲と言うことになります.それにしても享年31歳とは早すぎます
アルデオ弦楽四重奏団は女性のみ4人のグループですが,2001年にパリ国立音楽院の中で結成されました.西洋人と東洋人各2人という珍しい組み合わせです 助太刀の黒一点パスカルはパリ国立音楽院に学ぶ若者です
自席は11列31番,右ブロック左通路側席です.会場はほぼ満席 拍手の中5人が登場,第1楽章「アレグロ・マ・ノン・トロッポ」に入ります.静かに始まりますがシューベルト特有の息の長いメロディーが綿々と続きます 第1楽章が中盤に差し掛かろうとした時,急に揺れを感じました.会場がざわつきます.隣の中年男性が「あ,地震だ」と声にします すぐに時計を見ると3時55分でした.ステージ上の奏者たちも気が付いたのだと思います.正面のチェロ奏者が不安そうな顔で演奏を続けています.震度3くらいではないか,と感じました
その後余震もなく,1時間近くもかかるシューベルト晩年の大作「弦楽五重奏曲」の演奏を無事に終えました とくに第2楽章「アダージョ」のナイーヴな演奏が印象に残っています.余震でなく余韻に浸ることができて良かったと思いました
次に午後6時半からホールCで開かれた「ロシアのパシオン~チャイコフスキーの超名曲」(公演番号245)を聴きました プログラムは①N.チェレプニン「遠き王女のための前奏曲」,②チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番変ロ長調」。出演は、ピアノ=ベアトリーチェ・ラナ、アジス・ショハキモフ指揮デュッセルドルフ交響楽団です
自席は3階4列39番,右ブロック左から4つ入った席です.会場は文字通り満席 この日演奏するデュッセルドルフ交響楽団はドイツで2番目に古い市民オーケストラとのことで,かつてメンデルスゾーンやシューマンが音楽総監督を務めていたこともあるそうです 指揮のショハキモフは1988年,ウズベキスタンの生まれで,マーラー国際指揮者コンクール2位に入賞しています
オケは左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという態勢をとります
1曲目の「遠き王女のための前奏曲」は,1873年サンクト・ペテルブルク生まれのチェレプニンが,「遠き王女」という劇のために作曲した付随音楽です.リムスキー・コルサコフの弟子ということもあって,色彩感豊かな曲想が展開します
ピアノがセンターに運ばれ,金ぴかのゴージャスな衣装に身を包まれたベアトリーチェ・ラナの登場です 1993年生まれといいますから弱冠22歳です.モントリオール国際コンクールで優勝,ヴァン・クライバーン国際コンクール第2位入賞など輝かしい受賞歴の持ち主です
ショハキモフのタクトで第1楽章がホルンによる勇壮なテーマで開始されます.この曲はスケールの大きさにおいてベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番”皇帝”と1,2位を争う名曲ですが,一定レベル以上の技術があれば,誰が弾いても”名演奏”に聴こえるので,どこで他者と差別化して個性を発揮するのかが難しいとも言えます
彼女をサポートするオケを見ると,確かに管楽器は「市民オケ」という性格上,抜群に上手いところまでは達していないかも知れませんが,それでもなかなか聴かせます 弦楽器では,局面で独奏チェロが活躍しますが,このチェロが素晴らしい活躍です
ラナの演奏は,速いパッセージのところはとにかく”速い”というのが特徴かも知れません とくに第4楽章の終盤におけるラナの演奏は,「これほど速く弾いた人は見たことがない」と思うほど,超高速でしかも正確でした
終演後は拍手とブラボーの嵐でしたが,指揮者が首席チェリストを称えて立たせようとしましたが,彼は立たずに,弓でラナの方を指して,「賞賛されるべきは彼女だよ」とでも言いたげの表情でした.ラナも良かったけれど,このチェリストも素晴らしかった
2日目の最後は午後8時半からホールAで開かれた「受難曲の傑作~バッハの金字塔”ヨハネ”」(公演番号216)を聴きました プログラムはJ.S.バッハの「ヨハネ受難曲BWV245」。演奏はミシェル・コルボ指揮ローザンヌ声楽・管楽アンサンブルです
私は毎年のようにLFJ音楽祭でミシェル・コルボの指揮でバッハの受難曲を聴いていますが,その都度,深い感銘を受けてきました 今回も楽しみにしていました
自席は1階19列11番,左ブロック右から1つ入った席です.会場は1階後方左右席が多少の空席がある程度でしょうか.5,000人規模の大ホールにしては良くぞ入ったと言うべきでしょう
LFJ音楽祭では会場入り口で,その公演のプログラム(ペラ1枚の簡単なもの)が配られますが,この公演のプログラムを見てオヤッ?と思いました 出演者=ローザンヌ声楽・管楽アンサンブル,ミシェル・コルボ(指揮)とありますが,ソリストの名前が書かれていません バッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートでは「ソリストも合唱の一人」という位置付けを取っていますが,それでもソリストの名前は書きます.案内で「歌詞カードは別売りしている」旨をアナウンスしていましたが,そちらに書かれていたのでしょうか?誰もが手に入れるプログラムにソリストの名前くらいは入れるべきでしょう.スペースは十分にあるのですから
ホールAの入り口に向かう人たち
と言う訳で,オーケストラと合唱のメンバーが登場し,ソリストの5人がコルボとともに登場したのですが,ソリストが誰なのか一人も分かりません 昨年まではこんなことはなかったと思います.非常に残念です.来年以降の改善に期待したいと思います
コルボの指揮で受難曲が始まります.曲の冒頭の合唱とオケの演奏を聴いていて,「いつもバッハ・コレギウム・ジャパンで聴いているヨハネとは違うな」と思いました BCJの場合は,音楽表現がより明確というか,合唱,オケの音が分離して聴き取れるというか,メリハリが効いているというか,そういう印象があるのですが,コルボによるローザンヌの演奏はオケと合唱が混然一体となって聴こえてくるという印象があります
考えてみると,そのように聴こえるのは①合唱はローザンヌの方が総勢33人で,BCJの方はその半数くらいであること,したがって人数が少ないBCJの方が透明感のある合唱が聴けるということ,②鈴木雅明+BCJの方は若干速めのテンポで進めるのに対し,コルボの方はかなりゆったりしたテンポで演奏している,というのが原因ではないか,と思いました.もちろん,これは聴衆ひとりひとりの受け止め方が違うと思います
名前は知らないけれど,あのエヴァンゲリスト(福音史家)を歌ったテノール歌手は素晴らしかった BCJで聴くテュルクに勝るとも劣らない素晴らしいパフォーマンスでした 小柄で黒髪のソプラノ歌手も澄んだ美しい声でバッハを歌い上げました もちろん,カウンターテナーを含めた3人のソリストも,それぞれがバッハに真摯に対峙し素晴らしい歌声を聴かせてくれました
バックを務めた器楽アンサンブルでは何と言ってもオーボエ(形を見るとコールアングレか?),ファゴット,フルートといった管楽器が抜群のパフォーマンスを見せてくれたし,弦楽器ではヴィオラ・ダ・ガンバ(チェロからエンド・ピンを外したような楽器)が受難曲の悲しみを湛えた良い演奏でした
2時間に及ぶヨハネ受難曲が終わると会場は興奮の坩堝です そこかしこでスタンディング・オベーションが見られます 3日間のマラソン・コンサートの真っ最中の私も,途中で「休憩時間がないのは辛いな・・・」と弱音を吐きそうになりましたが,それでは弱音受難曲になってしまうぞ,と思い直して最後まで聴き通しました
やっぱりバッハは偉大である,ということをあらためて感じさせられたコルボ+ローザンヌの演奏でした
さて,速いもので今年のラ・フォル・ジュルネ音楽祭も今日で終わり.私は今日も6公演を聴きます.早ければ今夜のうちに前半の3公演をごしょうかいできると思います.合言葉は「オレは寝てはならぬ」