5日(火・祝)その2.よい子は「その1」から見てね 「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」第3日目(4日)の後半3公演について書きます
午後4時から東京国際フォーラム・ホールB7で開かれた「恋する作曲家たち~シューマンの愛妻に捧げる五重奏」(公演番号324)を聴きました プログラムは①ショパン「ピアノ・ソナタ第2番」、②シューマン「ピアノ五重奏曲変ホ長調」。演奏はピアノ=ベアトリ―チェ・ラナ、アルデオ弦楽四重奏団です
自席は9列14番,左ブロック右通路側席です.会場はほぼ満席 拍手の中,ラナが上が黒,下が銀のラメ入り衣装で登場,ピアノに向かいます.1曲目のショパン「ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調」は「葬送」という愛称が付いています.これは第3楽章の葬送行進曲に因みます ラナは最弱音から最強音まで落差の大きいダイナミックな演奏を展開します この曲は4つの楽章から成りますが,ラナは楽章間を空けることなく続けて演奏します.圧巻は第4楽章「プレスト」.地下で何かが蠢いているかと思うと,最後に爆発します.スケールの大きい演奏でした
2曲目は前日シューベルトの弦楽五重奏曲を演奏した女性グループ,アルデオ弦楽四重奏団にラナが加わり,シューマン「ピアノ五重奏曲変ホ長調」が演奏されます.この曲はシューマンがクララと結婚した2年後に作曲した傑作です ヴァイオリンの二人が前日と入れ替わり,東洋人の女性が第1ヴァイオリンを務めます
チューニングが行われますが,かなり念密にやっていると思ったら,第1ヴァイオリンから一人一人順番にやっていました ピアノのラナは若干手持無沙汰な感じです.やっと調弦が完了して第1楽章「アレグロ・ブリランテ」に入ります ラナを含めて5人とも力が入っていますが,とくに第1ヴァイオリン奏者が腰を浮かせて全精力を傾けて弾いているのが印象的です この曲はどの楽章も情熱的な曲想ですが,例えば第2楽章などは弦楽奏者同士のバトルのような様相を呈しており,「ほとばしる情熱」を感じます 3楽章「スケルツォ」が終了すると会場から拍手が起こりましたが,「この熱演では楽章間の拍手も無理もないかな」とさえ思いました 終演後は会場一杯の拍手とブラボーです
次に午後6時半からホールAで開かれた「パシオンの邂逅から3台のピアノがつなぐバッハと現代」(公演番号315)を聴きましてた プログラムは①ドゥカイ「上弦の月のライオンの井戸ー赤ー」(日本初演)、②バッハ「2台のピアノのための協奏曲第1番」、③ドゥカイ「儚さと永遠~笑顔の裏の涙」(日本初演)、④バッハ「3台のピアノのための協奏曲第1番」、⑤バッハ(ドゥカイ編)「コラール前奏曲”最愛のイエスは、私たちは”」(世界初演),⑥バッハ「3台のピアノのための協奏曲」です 演奏はピアノ=デジュー・ラーンキ、フュロップ・ラーンキ、エディト・クルコン(3人は親子)、バックを務めるのはアンドラ―シュ・ケラー指揮コンチェルト・ブタペストです
ステージには蓋を取ったピアノが3台,鍵盤が見える形で設置されています.ステージに登場したコンチェルト・ブタペストは15人の弦楽奏者から成る音楽集団ですが,立って演奏します 指揮者のケラーとラーンキ夫妻が登場します.位置的にはピアノと弦楽奏者の間に指揮台が置かれているという状態です
1曲目はドゥカイの「上弦の月のライオンの井戸ー赤ー2台のピアノのための声のポエジー」ですが,ドゥカイは1950年生まれのハンガリーの作曲家です.タイトルの意味はよく分かりませんが,まさに「ポエジー」という意味が込められた静かな曲です 日本初演ということです.短い曲が終わると指揮者とオケのメンバーが立ち上がり,2人をソリストにバッハの「2台のピアノのための協奏曲第1番」を演奏します
バッハのコンチェルトを聴いていていつも思うのは,まるでジャズだ,ということです もちろんバッハの方が先なので,ジャズがバッハを採り入れたのですが,脳に心地よい振動を与える音楽です
ここで息子のヒュロップが登場,3人でドゥカイ「儚さと永遠ー笑顔の裏の涙ー3台のピアノのための2つのカノン:J.S.バッハの思い出に」が演奏されます.この曲もタイトルの意味はよく分かりませんが,静かな曲です.この曲も日本初演
続いてオケが加わってバッハ「3台のピアノのための協奏曲第1番」が演奏されます.前日の「ヨハネ受難曲」を思い起こすと,バッハという人は実に多面的な音楽を作った人だったのだな,とあらためて感心し,その無尽蔵な才能に驚きます
次にバッハ(ドゥカイ編)「コラール前奏曲”最愛のイエスは,私たちは」が3人のソリストによって演奏されます.3つの楽章から成りますが,第1楽章は”輝く楽章”とでも言うような明るい曲,第2楽章は静かな”アダージョ楽章”,第3楽章は再び”輝く楽章”です.これは世界初演
最後はバッハの「3台のピアノのための協奏曲第2番」がオケとともに演奏されました この日のプログラムは普段のコンサートではあまり聴く機会のない「3台のピアノによる協奏曲」がまとめて聴ける絶好のチャンスでしたが,ドゥカイの『静』とバッハの『動』との絶妙な組み合わせによるコンサートでした
最後にソリスト達に促され作曲者のドゥカイが会場から呼ばれ,カーテン・コールに加わりました.日本初演,世界初演に立ち会うことが出来て聴衆の一人として嬉しく思います
今年最後の公演は午後9時からホールAで開かれた「L.F.Jの大団円を飾るパシオンの饗宴」(公演番号316)です プログラムは①プッチーニ:オペラ「ジャンニ・スキッキ」より『私のお父さん』,②同:オペラ「ラ・ボエーム」より『私の名前はミミ』,③ドニゼッティ:オペラ「愛の妙薬」より『人知れぬ涙』,④ヴェルディ:オペラ「ラ・トラヴィアータ」より『乾杯の歌』,⑤グリーグ「ピアノ協奏曲イ短調」、⑥マルケス「タンソン第2番」です 出演はソプラノ=アマンダ・パピアン、テノール=アキレス・マチャド、ピアノ=ユリアンナ・アヴデーエワ、ロベルト・トレヴィーノ指揮シンフォニア・ヴァルソヴィアです
ソプラノのアマンダ・パビアンとテノールのアレッサンドロ・リベラトーレによるプッチーニとヴェルディの「愛の二重唱」は,第1日目(2日)の「ルネ・マルタンの”ハート直撃コンサート”」で歌われ,会場の大喝采を浴びましたが,あの時の再演です 二人の歌唱を一言で言えば,「オーケストラの音を超えて会場に響き渡る最強のソプラノ,テノール」です.この日の二人も絶好調で,会場の大喝采を浴びました
次いで,グリーグの「ピアノ協奏曲イ短調」が,2010年のショパン国際コンクールの優勝者ユリアンナ・アヴデーエワの独奏により演奏されます 彼女の優勝は1965年のマルタ・アルゲリッチの優勝以来,女性では45年ぶりの快挙でした 彼女の演奏は生のコンサートで何度か聴きましたが,鋭いタッチとしなやかな抒情性に満ちた演奏です 第2楽章のアダージョで美しい弱音を聴かせたかと思うと,第3楽章のアレグロでは激しい感情の発露を見せ,聴衆の心を鷲づかみします 鳴り止まない拍手にショパンのワルツ(?曲名を思い出せない)を鮮やかに演奏,拍手の嵐を巻き起こしました
アヴデーエワが舞台袖に戻り,代わりに4人の男性スタッフがピアノを片付けるために現われると,次のプログラムの出演者と勘違いした聴衆から大きな拍手が湧き,事実に気が付くと嘲笑に変わりました.よくあることです
今年度のLFJ最後のプログラムはメキシコの作曲家マルケスの「ダンソン第2番」です.キューバやベネズエラなど中米エリアの民族舞曲をアレンジした曲で,管弦楽,打楽器が総動員の賑やかな曲です
トレヴィーノ+シンフォニア・ヴァルソヴィアは情熱的な演奏を展開,会場を興奮の坩堝に巻き込みました これが最終公演,当然アンコールがあります.再びパビアン,リベラトーレが登場し「乾杯の歌」を最強音で歌い上げ,聴衆の手拍子も誘い出して,またしても会場の温度を上げました それでも鳴り止まない拍手に,オケだけでブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」を民族色豊かに演奏し,止めを刺しました
プログラム上は午後10時終了となっていましたが,実際の終演は10時半を回っていました
長いようで短かった私のLFJ音楽祭もこれで終わり.一抹の寂しさを感じます 3日間で聴いた18公演のすべてを,睡眠時間を切り詰めながら,遅くとも翌朝にはブログにアップ出来たことは良い思い出になるでしょう
例年通り,今年のLFJの思い出に公式CD「PASSIONS~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015」(2枚組・1,500円)を購入しました アヴデーエワの演奏も入っています.まだ連休が残っているのでゆっくり聴きながらこの3日間を振り返りたいと思います