27日(日).わが家に来てから365日目(満1年)を迎え,テーブルの下で一休みするモコタロです
やっぱり 上に屋根があるところは落ち着くよね
閑話休題
昨日,初台の東京オペラシティコンサートホールで,バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の第114回定期演奏会を聴きました プログラムはJ.S.バッハの①オルガン協奏曲イ短調BWV593,②カンタータ「裏切り者なる愛よ」BWV203,③同「悲しみのいかなるかを知らず」BWV209,④「農民カンタータ”おれらの今度の殿さまは”」BWV212です.出演は,オルガン独奏=鈴木優人,ソプラノ:モイツァ・エルトマン,バス:ドミニク・ヴェルナーです 今回はBCJの誇るコーラス陣の出番はありません
”クラシック界のミューズ”モイツァ・エルトマンが遂にBCJ定期公演に登場です エルトマンがバッハからベルクまで幅広いレパートリーを持っていることは知っていましたが,まさか,BCJの定期公演に出演するとは思ってもみませんでした.その意味では期待が高まります
最初に鈴木優人のパイプオルガン独奏で,バッハの「オルガン協奏曲イ短調BWV593」が演奏されました.この曲はヴィヴァルディの協奏曲集「調和の霊感」作品3に含まれる「2台のヴァイオリンと弦楽,通奏低音のための(3楽章から成る)協奏曲」が原曲で,それをバッハが編曲したものです 聴く限り,やはりヴィヴァルディの曲想だな,と思いますが,それをバッハは自分らしく編曲しています
バスのドミニク・ヴェルナーが鈴木雅明とともに登場,チェンバロの伴奏で独唱カンタータ「裏切り者なる愛よ」BWV203を歌います 歌の内容は,ある失恋した求愛者の独白で,愛の神アムールを非難し,裏切りと欺瞞と咎め,報いられない愛の苦悩に満ちた奴隷状態から逃れることを強く決心する,というものです 聴く限り,まさに独白といった感じで,本当にバッハが作曲したのだろうか,と疑問にさえ思います
BCJのメンバーが登場し,配置に着きます.向かって左サイドに若松夏美以下ヴァイオリン6,右サイドにヴィオラ2,チェロ(竹澤秀平),ヴィオローネ(=コントラバス・西澤誠治),チェンバロ1(鈴木優人),そしてフラウト・トラヴェルソ(菅きよみ)がスタンバイします
モイツァ・エルトマンが上がベージュ,下がブラックのスタイリッシュなドレスで登場 鈴木雅明の指揮でカンタータ「悲しみを知らぬ人」BWV209の演奏に入ります.最初にオケだけで「シンフォニア」(序曲のようなもの)が演奏されます 菅きよみのフラウト・トラヴェルソが心地よく会場に響き渡ります.「管弦楽組曲」のような親しみやすい曲想です
次いでエルトマンが「別れのカンタータ」を美しい声で歌い上げます この曲を聴いただけでも,いかにエルトマンが優れたソプラノであるかが分かります.とくに高音部が綺麗で,まったくムリがありません
休憩後はカンタータ・ブルレスク「”農民カンタータ”おれらの今度の殿さまはBWV212」です.筋書きは
「ある1組の農民男女,ミーケ(エルトマン)と彼氏(ヴェルナー)が新領主就任祝いの前景気を祝う 男はキスを求めるが,ミーケはつれない素振り.すると男は新領主を褒め称え,税金取りに不平の矛先を向ける.ミーケは領主のすばらしさを讃えて歌い,税金や徴兵も殿様次第と男と一緒に囁く 次いで男が領主の奥方を褒め称え,ミーケは領主への新しい献上の歌を歌う これに対して男は「百姓はそんな町の節は歌わない」と言い,二人の歌合戦が始まる 歌合戦の終わりには,『いつもの飲み屋に飲みに行こう』と意気を上げて,幕を閉じる」
新領主とあるのはドイツ,ライプツィヒの南西にあるクライン=チョッハーという騎士領ですが,貴族のディースカウが領主を引き継いだのを機会に,この曲が作曲され演奏されました ディースカウってまさか,あの天下の名バリトン歌手フィッシャー・ディースカウの祖先では・・・と一瞬思いましたが,プログラムに掲載されたエルトマンのインタビュー記事にその答えがありました.彼女は語ります
「『農民カンタータ』は今回の依頼があるまで知らない曲でした.バッハの作品の中で数少ない,面白おかしい曲なので,歌うのが楽しみです でもこの領主様って,実はフィッシャー・ディースカウのご先祖様だってご存知でしたか?私にとっても今回勉強する過程で知った驚くべき事実でした.これは歌うしかないですよねぇ?(笑)」
チェンバロが左右に配置され,オケがスタンバイする中,会場の照明が落とされます.通常の定期公演ではプログラムの歌詞が読める程度の明るさがあるのですが,今回はオペラ会場のように暗転します 舞台上には”農民カンタータ”らしく野菜が入った籠などが置かれています
最初は弦楽合奏により「序曲」が演奏されます.楽しいウキウキするような曲想です すると舞台の左手から,髪をおさげにしてチェックのジャンバースカートをはき,白いエプロンをしたエルトマンが登場 右手からは同じようなチェックのシャツを着たヴェルナーが登場し,物語が始まります.エルトマンのチャーミングなこと
二人のやり取りを見ていると,これはまるでオペラではないか と思いました.バッハはそれを意識して作曲したのだと思います.エルトマンもヴェルナーも,歌が抜群に上手いのは言うまでもありませんが,演技も”玄人はだし”と言って良いでしょう 歌の合間に管きよみがフラウト・トラヴェルソを演奏しながら舞台を歩いたり,ホルンの福川伸陽(N響)が出てきて当時のホルンを復元した単純な仕組みのホルンを吹いたりします また,時々,二人の男女を望遠鏡で覗く集団が出てきたりしますが,これは佐藤美晴というウィーン大学演劇学科に留学経験のある女性の演出によるものです
二人の歌手を中心にカーテンコールが繰り返されましたが,途中で退席する人が極めて少なかったのは,この公演がいかに感動的だったかを表しています
今回のエルトマン+ヴェルナーによる”農民カンタータ”は実に楽しく素晴らしい公演でした 間違いなく私の「今年のマイベスト10」に入るでしょう
モイツァ・エルトマンの実力をさらに知りたければ,彼女のドイツ・グラモフォン・ソロ・デビューCD「モーストリー・モーツアルト」を聴くのが一番です バッハ,モーツアルト,サリエリなどを歌っていますが,透明で力のある美しいソプラノが聴けます
エルトマンのリサイタルの時にサインをもらった記念のCD
も一度,閑話休題
読者の皆さまのお陰をもちまして,モコタロが来てからちょうど1年経った日に当ブログの登録読者が600人を突破しました 日頃のご愛読に感謝いたします(これで,ますます休めなくなりました).これを記念して,抽選により「1万円札の詰め合わせセット」が当たるプレゼント・キャンペーンを実施します・・・・と考えたのですが,考えただけです.すいません これからも毎日更新しますので,引き続きご愛読をよろしくお願いいたします