26日(水)。昨日はクリスマスであり娘の誕生日でもあったので、お祝いをしました 今年は息子がいないので寂しいのですが、いつものように花を飾りケーキを用意しました
ということで、わが家に来てから今日で1545日目を迎え、米連邦政府の一部閉鎖が長期化しかねず、マティス国防長官退任や、トランプ大統領が米連邦準備制度理事会のパウエル議長の解任を探っているとの報道も市場に不安を広げ、米国発の世界同時株安が進んでいる というニュースを見て感想を述べるモコタロです
自分ファーストのトランプ政権が続く限り世界経済の混乱は続く 早く辞めさせろ!
片山杜秀著「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書)を読み終わりました 片山杜秀は1963年宮城県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。著書に「音盤考現学」「音盤博物誌」(この2冊で吉田秀和賞、サントリー学芸賞を受賞)など
この本は次の8つの章から構成されています
序章「クラシックを知れば世界史がわかる」
第1章「グレゴリオ聖歌と『神の秩序』」
第2章「宗教改革が音楽を変えた」
第3章「大都市と巨匠たち」
第4章「ベートーヴェンの時代」
第5章「ロマン派と新時代の市民」
第6章「”怪物”ワーグナーとナショナリズム」
第7章「20世紀音楽と壊れた世界」
まず「序章」で筆者は次のように述べます
「基本的に芸術作品が作られ、保存され、のちのちまで鑑賞されるには、それを価値あるものとして認めた『受け取り手』(すなわち発注者・買い手・消費者・観客)の存在が不可欠である そして、この『受け取り手』は時代によって大きく変わっていく。本書のテーマであるクラシック音楽の主な舞台となるヨーロッパであれば、教会ー王侯貴族ー大都市の市民層と、受け取る側の主役は変わり、その移り変わりと音楽は密接な関係にある
」
そして、筆者はクラシック音楽を聴くことに関して次のような重要な指摘をしています
「現代では、音楽を聴くというと、インターネットやCD、レコードなどの録音媒体によるものがむしろ大多数だろう さらにいえば、作曲・演奏をコンピューターに任せることも出来る。しかし、長い音楽の歴史においては、音楽とは生身の人間が演奏し、実際にその場所にいる人しか聴くことのできないものだったことを忘れてはならない
」
私が数年前に、録音媒体第一主義(CD4000枚、LP1500枚保有)から生演奏第一主義に変更したのは、上記のような意識によるところが大きいです ひと言でいえば生演奏は「一期一会」です
第1章「グレゴリオ聖歌と『神の秩序』」の中で筆者は興味深い見解を述べています
「ヴァイオリンという楽器が西洋で発展したのにも『人間の肉体をインストゥルメント(道具)として捉える』という発想が関係しているような気がする 演奏すればわかるが、ヴァイオリンは異常な楽器である。弦と弓を操作する両手を自由にするために、楽器を顎と肩で支えるというだけでも不自然極まりないのに、ホール全体に響き渡るほどの音量を、耳のすぐそばで鳴らし続けなければならない
演奏者は必ずと言っていいほど耳を悪くするが、誰もそのことを問題にしない
ヴァイオリンが生まれたのは16世紀中ごろだが、人間の体に優しい楽器という方向では西洋の楽器は発展していないのだ。確かに顎で挟んで、体のすぐ近くに楽器を寄せて、目でも弦のどこで指を押さえるかなどいちいち確認しながら、しかも右手で弓に圧力をたっぷりかけて弾けば、早業もやりやすくなるし、力強さも出る
でも体には悪い。それでも弓を速く動かし、大きな音で鳴らすことに特化するために、演奏者の肉体を、インストゥルメントの一部として扱おうとする。これが西洋文明の怖さだ
」
筆者はヴァイオリンが弾けることから上記のような指摘をしているわけですが、ヴァイオリンが弾けない素人からは、上記のような発想はすぐには出てこないように思います これを読んで思ったのは、ヴァイオリニストは、自分で出す音によって相当 耳に害を与えているんだなあ、ということです
ひょっとして、彼らのほとんどは難聴ではないかとさえ思います
第3章「大都市と巨匠たち」では、モーツアルトについて触れています
「モーツアルトが現在のように偉大な音楽家としての評価を確立するのは20世紀に入ってからのことである。それまでは 曲の流れが良くて響きも素晴らしいが、深刻さ、深みがなくて、軽い、軽薄だというイメージだったが、自分が踏みとどまる確固たる足場がないという不安を表現したものである、というように解釈が大きく変わっていった」
そして、小林秀雄の「モオツァルト」の「モオツァルトの悲しみは疾走する。涙は追いつけない」という言葉を引用します
第4章「ベートーヴェンの時代」では、ベートーヴェンはクラシック音楽の歴史の中で、美意識の革命を起こした、として次のように述べています
「クラシック音楽の 特に交響曲やオペラは、社会を巻き込んでいかないと演奏も上演もされず、認知されない。ベートーヴェンはこの巻き込む力が凄い 彼は文句なく『市民の時代』の音楽を切り開き、しかも彼一代で完成形までもっていってしまった
そのベートーヴェンの音楽の特徴は次の3つである。①わかりやすくしようとする、②うるさくしようとする、③新しがる」
詳細については本書をお読みいただきたいと思いますが、市民層に自分の音楽を理解してもらうためには、分かりやすく新しい音楽を大きな音で聴いてもらうのが一番だったでしょう
第6章「”怪物”ワーグナーとナショナリズム」では、上演時間が約15時間にのぼる「ニーベルングの指環」など壮大な楽劇を数多く生み出し、しかも作曲だけでなく、脚本、演出、劇場設計までも手掛けたワーグナーは、19世紀の最後を飾るに相応しい巨匠であり”怪物”である、と述べています さらに、ワーグナーは「近代+民族性」によって新しい音楽を創造し、後世の音楽家に多大な影響を与えたと評価しています
この本は、単なるクラシック音楽の歴史に留まっていないところが魅力です。広く音楽愛好家の皆さんにご一読をお薦めします