27日(木)。昨日の朝日朝刊第1面のコラム「折々のことば」を見て、思わずニヤリとしてしまいました それには次のように書かれていました
1/3は水に流す
1/3は大地に戻す
1/3は敵にくれてやる
これは作家の開高健がタイの知人から教わった「男の収入」を巡る諺で、酒を飲む、金を壺に入れ地中に隠す、奥方に渡すという意味だといいます これを聞いた開高はこれぞ「万国共通」と膝を叩いたとか
それにしても、「酒を飲む」を「水に流す」、「金を地中に隠す」を「大地に戻す」、「奥方に渡す」を「敵にくれてやる」と表現するとは なんと素晴らしい感性でしょうか
ということで、わが家に来てから今日で1546日目を迎え、トランプ米大統領が24日、サンタの位置を追跡するという米軍の関連行事で 子どもたちからホワイトハウスにかかってきた電話を取り「メリー・クリスマス。サンタをまだ信じているの?」と疑問を投げかけたことがネット上で話題になっている というニュースを見て感想を述べるモコタロです
大人に飽き足らず 子どもからも夢と希望を奪おうという気だな フェイクの塊りが
諸般の事情により昨日と今日の夕食作りはお休みです
奥田英朗著「向田理髪店」(光文社文庫)を読み終わりました 奥田英朗は1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て、1997年「ウランバーナの森」でデビュー。2002年「邪魔」で第4回大藪春彦賞を受賞、2004年「空中ブランコ」で第131回直木賞を受賞するなど多くの文学賞を受賞
この本は、かつては炭鉱で栄えたが、今ではすっかり廃れ、高齢化ばかりが進む北海道の過疎地、苫沢町で理髪店を営む向田康彦を主人公に、町で起こった様々な出来事をユーモアを交えて描いた連作短編集です 収録されているのは、「向田理髪店」「祭りのあと」「中国からの花嫁」「小さなスナック」「赤い雪」「逃亡者」の6篇です
「向田理髪店」は、札幌で働く息子・和昌が「会社を辞めて店を継ぐ」と言い出したことに対し、親としては嬉しいが、将来のない過疎地で店を続けていけるのか、と揺れる父親・康彦の複雑な心情を描いています 都市一極集中が続く中、地方の小さな町では、康彦のような父親が全国至るところにいるんだろうな、と思います
一番の問題は「高齢化で人が減少する一方の地域で、今は良いが将来はどうなるか分からない」という問題です
「祭りのあと」は、常連客の82歳・馬場喜八が風呂場で倒れ、クモ膜下出血で入院することになり、町の連中が妻の房江と息子の武司のことを心配し二人を支えようとする有様を描いています 息子の武司は東京に住んで働いているので、いつ息を引き取るか分からない父親を置いて東京に帰れないという苦境に立たされます
こういう事象も、親子が別々に遠いところで暮らしているケースでは日本のあらゆるところで起こっているに違いありません
「中国からの花嫁」は、農家の長男・野村大輔が中国に見合いに出かけて、中国人の花嫁を連れて町に帰ってきたが、大輔が花嫁を町の人たちに紹介しようとしないことから、康彦たちが説得して披露宴を開くまでの騒動を描いています 大輔は「金で花嫁を買った」と非難されるのが嫌で町の人たちの目線を避け、披露宴を開きたがらないわけですが、「外国からの花嫁」問題も農家などでは深刻な問題です
「小さなスナック」は、町に新しいスナックがオープンしたが、42歳のママ・三橋早苗が町の出身者で美人だったことから、男たちが夜な夜な通うようになり、彼女がもとで喧嘩騒動まで起きるという話です 早苗の気を引こうとして張り合う男たちの有様は滑稽で 思わず笑ってしましますが、男であれば誰でも他人事ではないな、と思い直し 苦笑してしまいました
「赤い雪」は冬の苫沢町に映画のロケ隊がやってきたことから、町を挙げての大騒動になるという話です 完成した映画「赤い雪」の試写会で作品を観た多くの町民は、連続殺人事件の舞台として苫沢町が使われたことに批判的だったのに、作品が世界的に有名な映画祭でグランプリを受賞すると、手のひらを返すように賞賛する姿が滑稽に描かれています
「逃亡者」は苫沢町出身の若者・広岡修平が東京で詐欺事件を起こし逃走中であるというテレビ・ニュースを見て町中が大騒ぎになるが、北海道に逃れて来た修平を地元の仲間たちが匿ったうえ自首させるという話です ここで筆者は、修平に対する和昌をはじめとする仲間たちの行動とともに、マスコミの取材攻勢を避けるため家に閉じこもる、犯罪者の親である広岡夫妻に心遣いを見せる康彦たちの行動に焦点を当てます
この小説を読んでいると、最初は頼りなく見えていた向田康彦の息子・和昌が、物語が進むに連れて頼もしい存在になっていく過程が垣間見え、この小説は向田理髪店の息子・和昌の成長物語でもあるんだな、と思うようになりました
高齢化が進む日本のどこに住んでいても他人事とは思えない深刻な問題を、ユーモアを交えて温かい眼差しで描いた作品です お薦めします