人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

新国立オペラでビゼー「カルメン」を観る 〜 アレックス・オリエの演出はリアリティーがあったか?:カルメン役のステファニー・ドゥストラックとミカエラ役の砂川涼子にブラボー!

2021年07月04日 07時19分34秒 | 日記

4日(日)。わが家に来てから今日で2367日目を迎え、安倍晋三元首相は発売中の月刊誌「Hanada」で、東京五輪・パラリンピックについて、「歴史認識などで一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に反対している」と批判し、具体的には共産党や5月の社説で中止を求めた朝日新聞を挙げた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     そうだよねぇ  スーパーマリオとして世界デビューしたんだから 中止はないよねぇ

 

         

 

昨日、新国立劇場「オペラパレス」でビゼーの歌劇「カルメン」のプルミエ(初日)公演を観ました キャストはカルメン=ステファニー・ドゥストラック、ドン・ホセ=村上敏明/村上公太、エスカミーリョ=アレクサンドル・ドゥハメル、ミカエラ=砂川涼子、スニガ=妻屋秀和、モラレス=吉川健一、ダンカイロ=町英和、レメンダード=糸賀修平、フラスキータ=森谷真理、メルセデス=金子美香。管弦楽=東京フィル、合唱=新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、児童合唱=TOKYO  FM少年合唱団、指揮=大野和士、演出=アレックス・オリエです

私が新国立オペラで「カルメン」を観るのは、2002年6月、2004年6月、2007年11月、2010年6月、2014年1月、2017年1月、2018年11月に次いで8度目ですが、このうち11年間(5回)は鵜山仁氏による演出でした 今回は久々の新演出による舞台です

自席は2階3列13番、左ブロック右通路側です 1階席は1列目と2列目がコロナ感染症拡大防止のため空席になっていますが、それ以外は通常配置です 2階は後方席がガラガラです 1階席は見えませんがどうだったのでしょうか

 

     

 

「カルメン」はジョルジュ・ビゼー(1838‐1875)が、メリメの小説に基づきメイヤックとアレヴィが書いた台本をもとに1873年から翌1874年にかけて作曲した4幕のオペラです

セビリアのたばこ工場で働くカルメンは伍長のドン・ホセに興味を抱き 誘惑する ホセにはミカエラという許婚がいたが、カルメンの魅力と誘惑に負け、軍隊を脱走しジプシー密輸団の一員となる 移り気なカルメンのホセへの愛は続かず、花形闘牛士エスカミーリョに心を移す中、ホセは危篤の母のもとに駆け付けるため密輸団を離れる 闘牛の日、ホセは再びカルメンの前に現れ、復縁を迫るがきっぱりと拒絶される 逆上したホセは短剣でカルメンの胸を突く

 

     

 

開演前の定例アナウンスの後、新国立オペラ芸術監督でこの日の指揮者・大野和士が舞台袖からマイクを持って現れました 芸術監督が開演前に現れるのは何か急な変更がある時です 彼は次のように語りました

「ドン・ホセ役の歌手については当初ミグラン・アガザニアンが出演する予定でしたが、コロナ禍に伴う渡航制限により出演できなくなり、急きょ村上敏明氏に代演を依頼し、リハーサルを重ねてきました しかし、本日に至るまで調子が上がっておりません 今回のプロダクションは台詞を伴う版(注:初演時の版)を使用するので、ホセが歌うアリアをカバー歌手の村上公太氏にお願いし、村上敏明氏には台詞を言うのと、歌に合わせて演技をしてもらうことにしました 急な変更ですが、ご了承ください

要するに、「村上公太氏がアリアを歌い、それに合わせて村上敏明氏が口パクで合わせて演技をする」ということです ”村上二人羽織”をやるのなら、公太氏が歌も演技も代演するという選択肢もあったのではないかと思いますが、時間的に間に合わなかったのでしょう。やむを得ません

【注意】以下は演出に関する記述があります これから本公演を観る予定の方で 先入観なしにご覧になりたい方は、公演を鑑賞された後でお読みになることをお勧めします

オーケストラピットに入るのはコンマス・依田真宣以下東京フィルの面々です。大野和士が指揮台に上り「前奏曲」がメリハリの効いた速めのテンポで演奏されます ステージは、ロック・コンサートでよく使われる鉄パイプ構造による舞台美術です。演出のアレックス・オリエの「プロダクション・ノート」によると、本公演では、カルメンは有名なバンドの歌手、ドン・ホセは警察官という設定で、彼らを取り巻く登場人物は、ミュージシャン、音響技術者、警備員、プロデューサー、そしてカルメンを追いかけるファンたちとなっています

アレックス・オリエの演出の意図は、「いかに175年前に書かれた作品の世界を現代の観衆に共感を持って理解してもらえるようにするか」ということです その結果として考え付いたのが上記の演出・舞台というわけです 一方、私がオペラの演出を観る時に基準としているのは「演出・舞台が歌を邪魔しないか」「舞台を別の時代に置き換えてもリアリティーを感じさせるか」ということです つまり、オペラはあくまでも歌がメインであって、演出は二の次だということ、そして演出に説得力があるかということです 説得力を持たない”演出のためのオペラ”は観たくありません というのは過去にそう思わせる公演があったからです 何年前か思い出せませんが、新国立オペラでヴェルディの歌劇「ナブッコ」が上演されたのですが、物語の舞台が現代のデパートに置き換えられていました ステージを見ればひと目でデパートだと分かるように中央にはエスカレーターが置かれ、商品売り場が並んでいます。もちろん店員も客も現代の服装です 「ナブッコ」はバビロニア王ナブッコのユダヤ侵略をめぐり、その2人の娘の間で戦わされた愛憎の物語をオペラ化した作品ですが、歌詞の内容とデパートという舞台背景が全く合わないのです 舞台を観ていて、「これは演出至上主義=演出のための演出の最たるプロダクションではないか」「ヴェルディに対する冒涜ではないか」とさえ思いました 新国立オペラ史上最低最悪の公演だったと思います

さて、今回のアレックス・オリエの演出はどうだったでしょうか 結論から言うと、説得力を持ちリアリティーのある演出だったと思います 主人公のカルメンは 誰にも束縛されたくない、自分の道は自分で切り開く という強い意志と行動力を持った女性ですが、カルメンを動かす強い原動力は現代の女性も共通して備えています また、ホセは惚れた女をどこまでも諦めずストーカーのようにまとわりつき、最後には殺してしまいますが、ホセのような男は現代社会においても存在します たばこ工場で働く女工であろうがバンド歌手だろうが、あるいは伍長だろうが警察官だろうが人間の感情や行動は同じなのです また、彼らの歌うアリアは、愛であり、憎しみであり、哀しみであり、いつの時代にも通用する内容です さらに、舞台装置も「ナブッコ」の例と異なり、どちらかというと抽象化されているので、歌を重視するという観点からはシンプルで良いと思います そういう意味では、アレックス・オリエは時代を超えて通用する題材を演出に採り入れ、違和感なくビゼーの作品を現代に蘇らせたと言えると思います

 

     

 

カルメンを歌ったステファニー・ドゥストラックはフランス出身のメゾソプラノです ウィリアム・クリスティに抜擢されバロック・オペラを中心に歌ってきたそうですが、リール歌劇場で「カルメン」も歌っています 「ハバネラ」「セギディーリャ」「ジプシーの歌」をはじめ、まさに魔性の女に相応しい歌唱力と演技力で観衆を魅了しました

ドン・ホセ役は前述の通り、村上敏明が台詞と口 パクを担当し、村上公太が舞台袖で楽譜を見ながらアリアを歌いましたが、公太氏が大健闘しました

エスカミーリョを歌ったアレクサンドル・ドゥハメルはフランス出身のバリトンです    前半はセーブしていたのか迫力不足でしたが、後半に盛り返しました

砂川涼子は新国立オペラ「カルメン」のミカエラは今回が4度目の出演です この人がアリアを歌うと涙が出そうになります。他に誰がいるのか?と言いたくなるほどの”はまり役”です

特筆すべきは新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO  FM少年合唱団の合唱です このオペラは合唱が重要な役割を果たしますが、素晴らしいパフォーマンスでした

満場の拍手の中、カーテンコールが何度も繰り返されました    アレックス・オリエの新演出による初日公演は 成功裏に終わったと言って良いと思います

コメント (2)
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