レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

玄関先が国境化?住宅難民発生の危惧

2017-06-04 05:00:00 | 日記
今日は前回扱ったトピックの続き、つまりレイキャビクの住宅事情に関してです。折良く?不動産価格の高騰とそれに続く賃貸価格の上昇についての詳しい記事が、先週火曜日、水曜日と連続でモルグンブラージィズ紙に掲載されていました。

統計局が、2011年始めから2017年4月までの不動産価格、及び賃貸契約価格の推移を発表したのを受けての扱いでした。

それによりますと、不動産価格の平均は2011年の一月には一平米あたりにして29.7500クローネ(kr)でしたが、今年の四月の時点では575.800krに上がりました。単純比較では93,5%の上昇ということになります。

統計局のイングビ·ハルザーソンさんの指摘よると「これは名目価格の比較であり、実際の比較のためには物価上昇指数等を加味しなければなりません」なるほど。確かに2011年は、経済恐慌の余波がもろに出ていた頃ですから、経済環境は今とはかなり違うでしょう。

そこで実際の価格というか現在の経済状況を前提にしての比較結果では、2011年一月時の不動産価格平均は362.000krになるのだそうで、現在(四月時点)の575.800krは59%の上昇となります。

物価は常に上昇しているのかと思いましたが、名目価格の比較よりも差が小さくなるようです。多分、物価だけではなく、賃金上昇率とかも計算しての指数を利用するのでしょう。スミマセン、経済音痴の私なので詰めは甘いです。

ちなみに、ここでの不動産価格とは、土地と物件を含めての価格です。アイスランドでは一般に土地の価格は大したことがありません。異様に土地価格が高い東京などとは異なりますので、ご注意。

価格上昇の高かった例。市の中央あたりの物件。1997年に660万krだったものが、三年前の2014年には3000万kr、さらに今年は4300万kr。

市の頭部の物件。2001年には645万kr。2012年には1390万krにまで値上がりし、今年は2890万kr。

二十年前に安かったのはわかりますが、ここ五六年の価格の上昇の仕方は普通ではないと思われませんか?

さて同時期(2011年〜2017年)の賃貸価格の上昇率ですが、これは73,8%と不動産価格の上昇率をはるかに上回っています。ちなみにこの統計には「学生住宅」つまり学生専用に設けられ、一般とは別個の仕方で貸し出されている住宅は含まれない、とのことです。

イングビさんの指摘よると、物件のオーナーにはふたつの選択肢があるということで「物件を賃貸市場から売買のためのマーケットへ移すか、あるいは賃貸料を高くして賃貸マーケットに残すかです」

ということはつまり、賃貸料を高くして貸し出し、さらなる儲けが保証されるような買い手が見つかったら、賃貸人を追い出してその物件を売る、ということに他なりません。残念ながら、日常起こっていることのようです。

こちらの経団連的な団体「経済生活連盟」の経済部の部長のアルンディス·クリスチャウンスドティールさんは、この不動産価格高騰の背景にある要因について、「多くの需要と少ない供給」という通常の理由に加えて「購買力の上昇」を指摘します。

つまり「求める側が払えるから、その分歯止めが効かない」ということのようです。もっともらしく聞こえますが、ここで問題になるのはそれだけの「購買力」を皆が持っているのか?ということです。経済恐慌後、それだけの購買力まで回復したのは一部の階層や、あるいは個人ではない企業家グループのようなものではないのか?ということは非常に気になります。

アルンディスさんは同時に「レイキャビク周辺においては、建物をThettaすべきです」とも主張しています。Thettaスェッタというのは「密にする」とか「隙間なくする」とかという言葉なのですが、ワタシ的にはこう言う脈絡では初めての用法で戸惑いました。

後に続くコメントから推して「ダウンタウンにはスペースがもう少ないのだから、悠然とした一軒家ではなくて、同じ土地面積でも多くの人が居住できるようにして『密に』住宅を建てるべきだ」ということのようです。

実際、今でもそうしているのですけどね、ダウンタウンでも。でも問題はそれらの建造物はすべてホテルだということです。

次いで登場するのはランドスバンキ(銀行)の不動産経済専門家アリ·スクーラソンさんです。(余談ですが、アリというのはAriと綴り普通のアイスランド人の名前です。モハメッド·アリのAliとはまったく縁がありません。名前から出自を想像されて問題になることもありますので念のため)

アリさんはアイスランドの商工会議所のような団体が「近い将来に多くの新築住宅が供給源に加わる」と指摘しているのを受けて「現在は住宅を新築するには良い時期なのです」と言っています。「不動産価格(つまりすでに立っている住宅の値)は上がっていますが、建築費はほぼ横ばいのままだからです」

その一方でアリさんは、不動産価格の下落には否定的なようで「新築の住宅というのは、新築である故に値段も高いですからね。全体の価格が下落するほどの影響はないでしょう」と言います。

「行き過ぎた高騰を止めることを考えるなら、例えばツーリストへの賃貸業などに関する規制を強めること、あるいは観光業自体が多少後退することは
有効性があると考えます。つまり、ツーリストへのゲストハウスのようになった物件が、もとの賃貸マーケットに戻すということです」これには賛成。

さらに若い世代への影響を尋ねられて答えるには、「若い世代には厳しい状況が属区でしょうね。第一に不動産価格は高騰しても、自前で用意できる資産はそう容易には手に入りません。第二に賃貸料金が高い水準に留まってしまっていて、若い世代の購買力、資金力はすぐには伸びないからです」

いろいろな専門家がいろいろな意見と指摘をされていますが、経済団体や銀行の専門家の場合は自己の利益に結びついていますからね。もっともらしいことを言っているように見えて、実は自分のところの懐を考えている、という面は必ずあることでしょう。

だからこそきちんとフォローしないといけないのですが、まあ大変なことであることも確かです。

それでも前回ご紹介したような「国内難民」が生まれているのですから、ここは庶民も頑張らないと。目の前に新しい住宅がどんどん建っていくのに、家を求めて市民が路頭に迷う、というのはチョー「非アイスランド的」だと言わなくてはなりませんから。


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

Home Page: www.toma.is


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