東京多摩借地借家人組合

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保証契約の追い出し条項

2020年05月07日 | 最高裁と判例集
リーマン・ショックの後,法的手続を踏まずに,鍵を交換し,賃借人を賃借物件から追い出す事例が頻発しました。この間の新型コロナウイルスの影響は,リーマン・ショック以上と言われており,再び違法な追い出しが頻発するおそれがあります。そこで,今回は,保証会社による保証契約で,保証会社による一方的な追い出しを正当化する条項について判断した判決(大阪地方裁判所判決2019年6月21日。以下「本件判決」といいます。)を紹介します。

 まず,本件判決の事案では,保証会社の保証契約書に以下の条項がありました(以下「本件条項」といいます。)。
 賃借人が家賃を2か月以上滞納し,保証会社において合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,かつ,賃借物件を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに,賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を保証会社に付与する。

 本件判決は,以下の要旨で,本件条項が,消費者契約法8条1項3号にいう「当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に該当し,無効であると判断しました。

本件条項が,原契約自体の終了原因の有無や解除の意思表示の有効性を問わずに同契約を終了させる趣旨のものであることに照らすと,本件条項の適用により,いまだ原契約が終了しておらず,賃借人の占有が失われていない場合であっても,保証会社は,本件条項に基づき賃借物件内の動産類の搬出・保管を行い得ることとなる。このような行為は,原契約が終了しておらず,いまだ賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で,保証会社が自力で賃借物件に対する賃借人の占有を排除し,賃貸人にその占有を取得させることに他ならず,自力救済行為であって,保証契約の定めいかんにかかわらず,法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて,不法行為に該当する。

違法な追い出しに対しては,正しい知識で断固対抗しましょう。
 (弁護士 種田和敏)

(東京借地借家人新聞より)
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借地の立退料の相場…東京地裁平成25年3月14日判決を題材に

2019年09月11日 | 最高裁と判例集
 借地契約は、期間満了となっても法定更新されるのが原則であり、地主がその更新を拒否するためには、更新拒絶の申出をしなければなりません。この更新拒絶の申出によって借地契約が終了するかどうかの判断基準となるのが「正当の事由」の有無であり、この「正当の事由」の有無の判断において重視されるのが立退料です。

 もっとも、借地人が朽廃していない建物を所有し自ら土地を使用しているケースでは、地主が如何に高額の立退料を提示したとしても、「正当の事由」が認められにくい傾向にあります。借地権価格以上の立退料を提示しているケースでも、「正当の事由」が認められなかった裁判例はいくつもあります。他方、借地人自らが使用していない(建物を使用していない)ケースや、借地人が法人で、建物を営利目的で使用しているケースなどでは、借地人の経済的被害を十分にフォローできる立退料が提示されることで「正当の事由」が認められる事例がいくつかあるようです。

 今回紹介する東京地方裁判所平成25年3月14日判決は、借地人が建物を所有し、その建物に知人を居住させている事案です。この事案では、借地人も建物の居住者も、本件建物から転居することが可能な事案でした。また、過去には建物の無断増改築等の信頼関係が必ずしも良好とはいえない事情もありました。そのため、裁判所は「(地主が借地人に対し)借地権価格及び移転費用等を基準として算定される立退料を支払うことにより、更新拒絶の正当事由が補完され、本件土地の明渡しを求めることができると解することが、当事者間の公平の見地から相当」と判断しました。その上で、借地の価格を、時価と推定公示価格の中間程度の金額である約5500万円と定めた上で「本件における正当事由の充足度、借地人が必要とする移転費用等諸般の事情を一切考慮すれば、本件における相当な立退料の金額は5000万円であると認めるのが相当である」と判断しました。

 本件は、立退料が借地権価格よりやや減額された事案ですが、信頼関係の問題等が過去になければ、上記裁判例で指摘するように「借地権価格」に「移転費用等」を加算して算定するのがスタンダードだったといえるのかもしれません。裁判例の中には、借地人が「借地権価格」より多くの金を受領しているケースも複数あります。借地契約における立退料の基準は、借地権価格(時価)+α(移転費用その他の経費等)が1つの目安になると思われます。 

(弁護士・西田穣)

(東京借地借家人新聞より)
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東京高等裁判所平成五年一一月五日決定―借地上の建物が朽廃に近い状態として借地人の借地権譲渡許可申立てを棄却した事例

2019年04月19日 | 最高裁と判例集
東京高等裁判所平成五年一一月五日決定―借地上の建物が朽廃に近い状態として借地人の借地権譲渡許可申立てを棄却した事例・掲載判例タイムズ八四二号一九七頁以下

(事案の概要)
借地人が譲渡しようとした建物は築後五七年を経過し、契約期間は平成四年九月に期間満了した。借地人は平成三年横浜地方裁判所川崎支部に借地権譲渡許可申立。同支部は平成四年一〇月一三日に借地人の申立てを認め譲渡を許可する決定をした(原決定。なお原決定は公刊されているか不明)。相手方となった地主が東京高等裁判所に抗告。同裁判所は、原決定を取り消して、借地権譲渡の申立てを棄却する借地人逆転敗訴の決定をし確定した。

(本件決定)
本件決定は、建物の屋根・外壁トタン・基礎の状態から本件建物が現在は住居として利用することは不可能であり大規模な修繕が必要だが多額の経費をかけて修繕しても経済的に引き合わず、このまま推移すると一ないし三年以内に社会通念上建物としての効用を滅失する状態に至ると認められると認定し、さらに借地人がこのような朽廃が近い建物の修繕をしようとしても賃貸人がこれを許可しない可能性が高く、また裁判所が増改築を許可することが適当でない場合が多いから、このような建物及び借地権を譲り受けても、譲受人は譲り受けの目的である建物利用をすることができない、売買の目的が果たしえない状態で借地権譲渡を許可するのは制度の趣旨に合致しないと判断して、借地人の借地権譲渡許可申立てを棄却した。

(解説)
 近頃、相続した借地上の建物があるが、相続人は居住利用しておらず、地代や今後の更新時の負担が大きく、さりとて建物を建替や大修繕をする経済的負担も大変であるとして、借地権をどうにか処分できないかという相談を組合関係で受けることが多くなってきました。借地権の処分というとき、地主に有償で返還するという道もありますが、借地権を第三者に売却処分するという道もあります。借地権の譲渡というものです。借地権譲渡は法律上、譲渡に対する地主の承諾がなければできません。では地主が承諾しないと言えばもう手段がないかというとそうではなく、法律(旧借地法・借地借家法)で、裁判所の許可を受けて借地権を第三者に譲渡する手続きが認められています。借地権処分の有力な一手段なのですが、朽廃まじかまで放置してしまうと許可が認められない場合があり得ますという注意喚起の事例として紹介しました。なにごとも早めに検討することが権利保全には必要です。
   (弁護士 田見高秀)





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建物買取り請求権の活用について

2019年03月06日 | 最高裁と判例集
1 建物買取請求権の活用法
 借地借家法13条は、借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができるとして、借主の「建物買取請求権」が規定しています。最近この「建物買取請求権」の意外な利用法があるとして注目されることになりました。借り主がこの「建物買取請求権」を行使すると土地の貸主と借主との間で建物の売買契約が成立したことになり地主は買取を拒否することはできません。建物の売買契約が成立すると、その瞬間に、建物の所有権が地主に移転することになります。そのため、借地上の建物は地主の所有物となった以上、賃借人は他人の所有物である建物を収去する義務はなくなります。賃貸借契約期間満了による終了時においては、事実上、地主が建物収去をしなければならないということになります。

2 合意解約は慎重に
合意解約によって土地賃貸借契約が終了する場合は、合意に至るまでに建物をどうするかについての話し合いすることが多く、話し合いで決まることが多いと思います。話し合いが成立しない場合について、旧借地法時代の最高裁判例(最判昭29年6月11日)では、建物買取に関する合意が存在しない限り、買取請求権の放棄・建物収去が当然の前提と解すべきとしました。借地権者が借地上建物の運命まで顧慮したうえで合意をしたと考えられるから、特に建物買取りに関する合意が存在しない限り、買取請求権の放棄・建物の収去が前提とされていると解されるからです。現在の借地借家法下での裁判例はないようですが、「買取請求権」は発生しないと考えられます。合意解約によって土地賃貸借契約が終了する場合は建物買取請求権を放棄するのかについて慎重に考えることが大事です。      以上  (弁護士 黒岩哲彦)

(東京借地借家人新聞より)
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借地借家法三二条一項ただし書の「借賃を増額しない旨の特約」について黙示の合意が成立していたとされた例(東京高等裁判所平28・10・19判決。判例時報二三四〇号)。

2018年12月05日 | 最高裁と判例集
借地借家法三二条一項ただし書の「借賃を増額しない旨の特約」について黙示の合意が成立していたとされた例(東京高等裁判所平28・10・19判決。判例時報二三四〇号)。

来年一〇月から消費税が八%から一〇%に上がります。これは、建物賃料にどう影響するでしょうか。そのことを考えるうえで参考となる判例を紹介します。

経済事情の変動等によって、賃料が不相当になった場合には、賃貸人には増額請求権、賃借人には減額請求権が認められますが、増額については、一定期間増額しない旨の特約があればこの請求権を排除することができます(借地借家法三二条一項ただし書き。地代については一一条一項ただし書き)。この特約が書面によってなされている場合(明示の合意)は問題ありませんが、そうでない場合にも一定の事情の下でこの合意が認められる場合があります。これを黙示の合意と言います。本件はそれを認めた事案です。

(判旨)「本件賃貸借契約においては、平成九年四月に消費税率が三%から五%に引き上げられた際にその前後を通じて賃料総額は変っておらず、平成一五年頃賃料が改定された際も税込の金額とされ、平成二六年四月に消費税率が五%から八%に引き上げられてもそれに伴って賃料が増額されることはなかった。それに、本件賃貸借契約は、建物共有者両名と両名が取締役を務める株式会社との間に締結されたものであり、その後共有者の一人が死亡し当事者に変更があったが、賃貸人と賃借人との密接な関係が続いており、このような関係においては、賃貸人において、消費税の引き上げ分まで賃借人から徴収して僅かな損害を防ぐとの意図はなく、むしろ、円満な賃貸借関係を継続することが優先されたと考えるのが合理的である。これらの事情に鑑みると、本件賃貸借契約の当事者間においては、本件賃貸借契約の内容として又は本件賃貸借契約と密接不可分な合意として、消費税率の変更にかかわらず賃料総額を変えないという黙示の合意が成立していたものと認められる。」

この判決は、当事者の関係、契約締結の経緯、賃料増額の有無等の事情を踏まえ、契約の合理的意思解釈に従ったものであって、正当と評価されます。消費税が上ったからといって当然賃料総額も上るわけではないことに注意が必要です。 (弁護士 白石光征)
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建物が独立して建っていて、誰かが居住している場合には「朽廃」とは認められない

2018年07月31日 | 最高裁と判例集
建物の朽廃とは?

 旧借地法第2条第1項但書は、借地契約の期間満了前でも建物が「朽廃」したときは借地権が消滅すると定めています。これに基づき、地主の側から、古い家屋に対し、「朽廃」を理由に建物を収去して土地を明け渡せという主張がされます。しかし、建物の「朽廃」というのはどういった状態をいうのでしょうか。建物の「朽廃」を否定した参考事例となる判例を紹介します。

最高裁判所昭和42年7月18日判決

「本件建物は、昭和16年頃建築されたものであって、昭和40年9月1日現在における建物の状態については、これを部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚だしい損耗があり、また、屋根瓦にも同程度の損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に、また1個の構成物である建物全体としてみるときは、自力によって屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることはなく、局部的応急修理の上、維持保全の処置を講じるならば建物としての耐久力は安定且つ平衡性を維持し、場合によっては増大される状態にあって、いまだ社会経済的効用を失う程度に至っていない、というのであるから、本件建物は借地法にいう朽廃の程度には達していないものと解すべき」

この判例の建物は、部分的にはだいぶ損耗が著しい状態にあったと推測できます。ただ、「自力によって屋根を支えて独立して(建物として)存在している」、「建物内部に入る際に、危険を感じることがない」といった点を理由に「朽廃」を否定しています。例えば、建物に誰かが居住している場合、居住している人は危険を感じながら居住を続けているということは通常あり得ませんし、建物が独立してきちんと建っていないと居住できませんので、建物に人が居住している場合、朽廃にはならない可能性が高いといえると思います。

他方、人が住まないまま建物が長期間放置されていたり、基礎や柱、屋根といった建物の主要構造部について全面的な補修が必要だったりする場合に、「朽廃」を認めているのが判例の傾向だと思います。(弁護士西田穣)
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借上型区民住宅の賃貸人による原賃貸借契約終了は転借人に対抗できない

2017年11月08日 | 最高裁と判例集
借上型区民住宅において,賃貸人が信義則上,原賃貸借契約の終了を転借人に対抗できないと判断した裁判例(東京地方裁判所平成28年2月22日判決)

本件は,東京都特別区の借上型区民住宅を所有する原告ら(賃貸人)が,特別区の外郭団体(賃借人・転貸人)と各区民住宅の入居者ら(転借人)に対し,所有権に基づく返還請求として,原賃貸借契約の期間満了日における各室の明渡しを請求した事案である(なお,東借連弁護団員が被告ら代理人として関わった事案である。)。

 本件の主な争点は,原告らが信義則上,原賃貸借契約の終了を被告らに対抗することができるか否かである。

 本判決は,上記争点について,事業用ビルのサブリースに関する判例(最高裁第一小法廷平成14年3月28日判決)など踏まえ,原告らが,被告外郭団体に各建物を第三者に転貸させることによって,自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに,安定的に賃料収入を得ることを目的として原賃貸借契約を締結し,被告外郭団体が第三者に転貸することを原賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること,入居者らが,この目的の下に原賃貸借契約が締結され転貸の承諾がされることを前提として,転貸借契約を締結し,現に各居住部分に入居してこれを占有していることなどの事実関係があるため,原告らが,信義則上,各原賃貸借契約の終了をもって被告入居者らに対抗することはできないと判断した。
最高裁は,賃貸人が賃借人(転貸人)との間の原賃貸借の終了をもって転借人に対抗できるかに関して,賃貸借の合意解除という当事者の恣意による終了は転借人に対抗できないが,賃貸人からの債務不履行解除など当事者の恣意によらない終了は対抗できると判断してきた。この点,判例は,期間満了による終了について,賃借人(転貸人)からの更新拒絶による賃貸借の終了のケースで,賃貸借がサブリースであるということを踏まえて,賃貸人と転借人との利益衡量をして,賃貸借の終了を転借人に対抗できないとしたが,本件は,賃貸人からの更新拒絶による賃貸借の終了のケースである点や賃借人の事業の目的が公的なものである点で異なるものの,上記判例と同様の結論をとったものである。(弁護士・種田和敏)

(東京借地借家人新聞より)
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借地人が借地上の建物を第三者に賃貸しても、土地の転貸借に当たらない

2017年07月19日 | 最高裁と判例集
物所有目的で他人の土地を賃借する者は、その所有建物を第三者に賃貸しても、土地の転貸にはあたらないとした裁判例(東京地方裁判所昭和34年9月10日判決)

 よく借地をしている方から建物を他人に貸すときに地主の承諾は必要ですか、という質問を受けます。建物は、借地人の所有物なので、自分の所有物を他人に貸すのは自由なはずなのに、こういった質問が出る理由は、その建物が、地主の土地の上に建っているため、その地主から借りた土地の権利も転貸することになるのでは?という疑問があるからだと思います。この疑問に対して、土地の転貸にあたらないと判断したのがこの裁判例です。

 この裁判例は、「他人の土地を建物所有のために使用する権限を有する者は、この権限に基づきその地上に所有する建物を自由に他人に利用せしめることができるのであり、この建物利用にともなう敷地の利用は本来建物所有のためにする土地使用の権限に内包されるものというべきである」として、建物の賃貸は、土地の転貸にはあたらないため、地主の承諾は不要であるとしました。
 実際、地主は、建物を建築する目的で土地を貸す(使う)ことを承諾しているのですから、その建物を借地人自身が居住する場合と、それ以外の第三者が居住する場合で、建物所有による土地使用の態様に違いはありません。そのため、建物の賃貸につき、地主の承諾を不要としても、地主には不利益は生じません。この点を重視したこの判決は、常識的な判断をしているといえます。
 なお、戸建て住宅には、自家用車を停める駐車場部分があることが多いと思います。駐車場部分には建物が建っていないため、借地上の建物は賃貸できても、駐車場部分は土地の転貸になってしまうのではないかと心配される方もいるかもしれません。しかし、自家用車を停める程度のスペースの利用は、建物利用に付随した使用方法であり、建物と一体として評価されます。そのため、建物を賃貸するに際し、自家用車を停めるくらいの駐車場スペースも一体として賃貸する場合、同じく地主の承諾は不要です。
 借地人の方は、建物を自分で使用しない場合、地主の承諾がなくても、第三者に建物を貸すことができることになります。
(弁護士 西田穣)

東京借地借家人新聞より
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不当訴訟を理由とする損害賠償請求が一部認められた事例

2017年03月06日 | 最高裁と判例集
借地契約があるにもかかわらず提起された所有権に基づく建物収去土地明渡し請求に対し、不当訴訟を理由とする反訴請求が一部認容された事例(東京地裁平成28年10月21日判決)

1、事案の概要
 土地を取得した業者が、取得後約9か月で借地人に対し、所有権に基づく建物収去土地明渡し訴訟を提起したという事案。その後、無断増改築による解除の主張が追加された。ただし、増改築があった後に、前地主と借地人の間で借地契約の合意更新がされている。

2、判決要旨
 本件の事実からすれば、通常人であれば、前地主が増改築を承諾していたことを容易に認識できたというべきであり、原告もまたこれを認識したか、容易に認識できたというべきである。それにもかかわらず提起された本訴は、裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くもので不法行為に該当する(損害として、慰謝料10万円と弁護士費用1万円を認容)。

3、コメント
 不当訴訟を理由とする損害賠償請求はハードルが高い。判例では、「提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合」に限り認められるとされる。本件は、その高いハードルを超えて反訴請求が認められたという点で参考になる事例である。   (弁護士 瀬川宏貴)

(東京借地借家人新聞より)
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老朽化を理由とする借家明渡請求案件の判決二例 どこで判決が分かれたか

2016年12月07日 | 最高裁と判例集
借家建物につき家主が老朽化や耐震性能不足を理由に更新拒絶・解約申入をして借家人に立ち退きを求める案件が、私が関与したもので昨年営業者(店舗)のものが複数件あった。和解に落ち着いたものも、来春に判決を迎えるものもある。老朽化・耐震が絡む法律相談が増えていると体感する。そこで使用の判例ソフトから、借家契約での家主の請求認容判決一例と借家人勝訴の棄却判決一例を取り上げ、どこで結論が別れたのかを分析してみたい。紙幅の制約から事例は大幅に割愛せざるを得ない。

① 家主の明渡請求を認めた判決(東京地裁平成二六・八・二九 出典ウエストロージャパン)

 義父の代からの理髪店。昭和三〇年代から営業。解約(平成二四年)時の家賃六万五〇〇〇円。坪数不詳。建物は築九〇年。木造二階建。一級建築士の調査報告(構造部分にかなりの劣化)が出ている。家主は取壊し後は,その敷地に鉄筋コンクリート造地上六階建ての賃貸マンションを建築することを計画。判決は、家主の計画に現実性があり、自己使用の必要性があると認められるが、他方、借家人も営業継続の必要性があるから建物の自己使用の必要性もあるが、代替物件で営業継続も可能だから、適正な価格の立退料によって正当理由の補完が可能と判断、家主申出の三〇〇万円の立退料に対して、借家権価格・設備更新費用・営業補償の一部として一〇〇〇万円(借家人算定は二四二九万円)の提供と引き換えに建物明渡を認める判断をした。

② 家主の明渡請求を棄却して借家人勝訴とした判決(東京地裁平成二五・一二・二四 出典判例時報二二一六号七六頁)
 レストラン。昭和四一年築の建物に建築時から入店。平成二三年五月更新拒絶。家賃月五〇万円。鉄筋コンクリート五階建。レストランは一階。耐震簡単診断で〇・六以下、補強工事費に八五〇〇万かかるし、使用できない劣化した建物の維持費は負担であり、取壊し後は敷地部分を駐車場として利用することになる(家主主張)。家主の申出立退料は二九八五万円。借家人は三億数千万円。判決は、家主には,建物を取り壊したとして,その敷地につき,差し迫った自己使用の必要性があるとは認められないとし、耐震不足を理由とする取り壊しの必要性(危ないから壊す)は壊さずとも耐震性改善は可能だから取り壊しは不可避ではないと判断、結局、家主の更新拒絶には正当理由がないとして、家主の明渡請求を全面棄却する判断をした。
【寸評】判決を比較すると建物が劣化しているので取り壊すと言っている家主自身の建物取壊後の土地利用計画の欠如が②判決を引き出す動因になっているように感じられる。この点は、立ち退きを求めてくる家主に対する反論の重要なポイントの一つである。(弁護士 田見高秀)
















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「建物の朽廃および特約違反を理由とする土地明渡請求が認められなかった事案」(平成24年11月28日東京地裁判決)

2016年10月11日 | 最高裁と判例集
1 事案の概要
借地人所有の建物は戦後まもなく建てられたが,平成23年の震災で外壁のモルタルが一部はがれ落ちた。借地人が外壁全体のモルタルを塗り固めたところ,地主が建物の朽廃,特約違反を理由とする解約解除により契約終了したとして,建物収去土地明渡を請求した事案である。なお,契約には「本件と地上の建物の増改築や大修繕をする際には予め賃貸人の書面による同意を得ること」との特約があった。

2 問題の所在
(1)本件建物が朽廃(借地法2条1項但書,借地法は平成4年7月31日以前に締結された契約に適用される。契約更新後も同じ。)し,借地権が消滅したか。
(2)借地人の修繕は特約に違反するか。

3 裁判所の判断
 裁判所は以下の(1)(2)により地主の請求を認めなかった。
(1)「朽廃」とは,経年変化等の自然の推移により建物としての役に立たなくなった場合であり(大審院判決昭和9年10月15日),本件建物は朽廃していない。
(2)「大修繕」とは,建物の主要構造部分の全部または過半を取り替えるなど,建物の耐用年数に大きく影響を及ぼす工事をいうので,本件修繕は「大修繕」にはあたらない。

4 コメント
建物の「朽廃」は基準が厳格なため認められにくい。また火災,風水害や地震により一挙に建物の効用を失い,取り壊しのように人為的に建物の効用を失わせたときは「朽廃」にはあたらないことも覚えておいておくとよい。自分の所有建物といえども契約に大修繕を制限する特約がないか確認していただきたい。なお建物を堅固にするのは借地条件変更として原則地主の承諾を要するため注意して欲しい。(弁護士 大竹寿幸)

(東京借地借家人新聞より)
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建物の無断改築及び示威行動を理由とする借地契約の解除が認められなかった事例

2016年08月22日 | 最高裁と判例集
 今回ご紹介するのは、私が担当した建物の無断改築及び示威行動を理由とする借地契約の解除が認められなかった裁判例(東京地方裁判所平成28年3月18日判決(判例秘書登載))です。

 本件は、地主が,賃借人に対し,①1年前に飲食店を事務所に変更した工事が無断改築に該当すること(無断改築),②直近に隣接する地主の新築建物の外塀のコンクリート基礎をハンマーで損壊したこと(示威行動)を理由として,借地契約の解除を主張し,土地の明渡しを求めて提訴してきた事案です。

 裁判所は、地主の請求をしりぞけ,借地人勝訴の判決を出しました。まず,①に関しては,ミキサー車を使ってコンクリートが流し込まれた点や工事代金が300万円であったことを考慮すると,地主の承諾が必要な「改築」に当たるものの,飲食店が事務所に変更になったことで,音や臭い,煙が出ることが少なくなると推測され,周りへの影響は減るとみられるので,土地の通常の利用上相当であり,土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため,信頼関係が破壊されていないと判断しました。また,②に関しては,警察官も臨場したことなどから,ハンマーを持ち出したことについては,非難に値することは否定できないとしつつ,コンクリートが壊れた程度が大きくないこと,借地人が関連する件で地主に対応を求めたのに地主が対応をせず借地人が不満を募らせていたことからも,非難の程度が特に高いとはいえず,信頼関係が破壊されたとはいえないと判断しました。
 地主が無断増改築や借地人の言動を理由として借地契約の解除と明渡しを求めるケースは少なくはないですが,このケースは具体的事例の1つとして参考になると思います。まず,増改築する場合は,地主の承諾の有無が問題となる場合が多いので,後々,口を出されないためにも,事前に組合に相談することをお勧めします。また,地主と感情的な対立に発展する場合もありますが,後々,不利に扱われないように,いきすぎた言動は控え,慎重な対応が必要です。地主とトラブルになりそうな場合にも,早急に組合に相談をすることをお勧めします。
(弁護士 種田和敏)

(東京借地借家人新聞8月号より)
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地代自動改定特約の効力を否定し、同特約が有効であることを前提とした地主からの賃料請求を棄却した事例

2016年06月07日 | 最高裁と判例集
 地代自動改定特約の効力を否定し、同特約が有効であることを前提とした地主からの賃料請求を棄却した事例(東京高裁平成28年3月30日判決)

 借地人側の代理人として、先日、東京高等裁判所から判決を受けた事案をご紹介します。

1 事案の概要
借地人Yの父Aは、昭和31年頃、地主Cから土地を借り受けた。Aの死亡に伴いYの母Bが借地権を相続したが、Yは、昭和59年9月、地主Cとの間で、Yを借地人とする土地賃貸借契約書を取り交わした。この契約書には、「2年ごとにその時点の賃料に10%を加算する」旨の賃料改定特約が設けられた。
Yは、その後、本件特約にしたがって増額改定された地代を支払っていたが、平成14年7月には、本件特約にしたがって改定される地代は高額に過ぎると考え、その後は本件特約が適用されないことを前提とした地代を支払った。
地主Cから賃貸人たる地位を承継したXが、賃料改定特約は有効であるとして、同特約を適用した場合の地代との差額(未払賃料)の支払いを求めて提訴した。Yが勝訴し、Xが控訴。

2 判決要旨
控訴審は、本件特約の記載内容と借地近辺の標準地の地価の変動率を詳細に認定し、本件特約は借地をめぐる経済情勢を重要な指標としているから、当時想定されていた経済情勢=地価の継続的な上昇を見込んで、地代改定を巡る協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため、一定の基準に基づいて地代を自動的に増額するために設けたと認めるのが合理的であり、このように解して初めて、本件特約が地代改定基準として相当と認められると認定し、Xの主張を排斥した。
地代の不相当性については、直近の改定からの地価の変動率、近隣類地の地代との比較を踏まえ、遅くとも平成14年7月分以降の地代は借地借家法11条1項に照らして不相当に高額であると判断、Xの控訴を棄却した。

3 所感
  訴訟では、本件特約の基礎となる事情や増額改定された地代の不相当性について争われましたが、特約締結前後の借地近辺の標準地の地価の変動や近隣類地の地代について、提出した証拠に基づいて非常に丁寧な認定がなされました。改めて立証活動の重要性を学ばせて頂いた事案でした。(弁護士 大浦郁子)

(東京借地借家人新聞6月号より)
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建物の耐震性能不足を理由とする借家の更新拒絶が認められなかった事例

2016年04月04日 | 最高裁と判例集
 建物の耐震性能不足を理由とする借家の更新拒絶が認められなかった事例

 今回ご紹介するのは、私が担当した建物の耐震性能不足などを理由とする借家の更新拒絶の正当事由が認められなかった裁判例(東京地方裁判所平成27年2月12日判決(判例秘書登載))です。

1、事案の概要
本件は、建物賃貸人が、近隣の一体の土地建物を購入し、共同住宅を建築すべく、本件建物賃借人(一人暮らし)を立退かせようとしてきたものです。
建物賃貸人は、本件建物購入後まもなく、本件建物の耐震診断を行い、本件建物の耐震性不足・老朽化による建替えの必要性、土地の有効活用等を主張して、裁判をしてきたのです。
なお、本件建物は築60年以上で、原告の提出した耐震診断書(精密診断法)によれば、構造評点(最小値)は0.47で、「倒壊する可能性が高い」とされました。
参考に、建築基準法の想定する大地震動で、構造評点が、1.5以上で「◎倒壊しない」、1.0以上~1.5未満で「一応倒壊しない」、0.7以上~1.0未満で「△倒壊する可能性がある」、0.7未満で「×倒壊する可能性が高い」、とされます。

2、判決要旨
裁判所は、正当事由の有無に関し、①双方の建物の使用を必要とする事情を主たる要素と位置づけ、原告には本件建物又は本件土地を使用する切迫した必要性が認められないことから,②耐震性能等の従たる要素において、それでもなお被告に明渡しを肯定すべき相当程度の事情が認められなければ更新拒絶につき正当事由は容易には認めがたいというべきであるとしました。

そして、②本件建物の耐震性能の問題について、老朽化等によってみるべき構造的欠陥が生じているとは認められないこと,補修によって耐震性能の改善が可能であることなどから、耐震性能を理由にその取り壊しが不可避であるとまで認めることはできない等として、正当事由を否定しました。

3、コメント
 近時、耐震性能不足を理由とし、建物建替えの必要性を主張して、立ち退きを求める例が多く、本新聞でも多くの事例が報告されてい
ますが、双方の使用の必要性を中心に判断した上、補強の内容や費用等も総合的に判断し、建替え相当かどうかが判断されます。
本件のように、建物が倒壊する可能性が高かったとしても、それだけで更新拒絶が認められるものではありません。(弁護士 長谷川正太郎)

(東京借地借家人新聞)

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借地の無断転貸が信頼関係の破壊なしとして解除が認められなかった例(東京地裁平成28.1.22判決)

2016年02月15日 | 最高裁と判例集
 借地の無断転貸が信頼関係の破壊なしとして解除が認められなかった例(東京地裁平成28.1.22判決) 

今回ご紹介するのは、私が賃借人側代理人としてかかわった事件で、つい先日判決があった事案です。

 昭和29年にAの名義で始まった借地(50坪)契約は、昭和49年と平成6年にそれぞれ合意更新され、平成6年の更新に際しては、Aから借地権を相続していた妻Bからその娘Cの夫Yに借地名義を変更し、名義変更料として500万円を支払った。

 一方、借地上の建物は、Aが昭和31年、家族の居住とAが創立した宗教法人Zの活動に供するために建築し、その所有名義はZで登記した。そして、Zの代表役員はA→B→Cと一族が承継してきた。建物にはZの看板が掲げられ、敷地内に鳥居や稲荷があり、Zが建物を使用していることが外部からも分った。信者は100人程度いた時期もあるが徐々に減少し、平成25年には40人程度となり、活動は月1回の祭礼ぐらいで、布教活動をすることもなかった。こうして、建物はZの使用に供される以外は、AB夫婦、CY夫婦とその各家族が居住してきた。

 地主Xは、先代の死亡に際して土地建物の登記簿を調べたら借地人と建物所有者が異なっていることを発見したとして、平成24年10月、借地権の無断転貸を理由として借地契約の解除を通告し、借地人Yと建物所有者Zに対し、建物収去土地明渡請求の本訴を提起した。

 判決は、宗教法人Zの代表者Cと借地人Yは同居の夫婦であり、YとZには一体性があり、建物の使用状況も借地開始後相当長期に渡り変化はなかったから、本件転貸は信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるので、解除は無効である、ZもそのことをXに対抗できる、としてXの明渡請求を棄却した。

 判決は、従前の判例に照らしても当然ですが(裁判官は審理の当初は借地人側に厳しい見方をしているようにとれましたが、被告側の丁寧な主張立証とCの本人尋問で心証が変ったようでした)、この事件は、解除の通告を受けてCYの家族が地元の借地借家人組合に相談したら、借地人と建物所有者が違うからダメだといわれ途方に暮れていたところ、信者の中にたまたま北借組の組合員(30年前頃借地の更新で組合に相談に来た方)がおり、私に紹介してきたものでした。組合活動の参考のため一言付け加えました。(弁護士 白石光征)

(東京借地借家人新聞2月号より)
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