昨年12月14日のⅩのスペースでは、全借連新聞12月15日号の京借連と生健会(生活と健康を守る会)共催で開催した学習会について、新聞の記事が読み上げられ、学習会のテーマである「明渡し・賃料増額・原状回復問題」について、議論しました。
藤田 京都ではどうしてこのテーマで学習会が行われたのか。高齢者住宅の現状とはどういう現状なのでしょうか。
細谷 私が京借連の皆さんからのお話を聞くと、京都では過去の戦争において空襲で家が焼かれなかったため、築70年を超える借家に住んでいる方もいるようです。家主が地上げ屋等に家を売却し、新しい家主からの明渡しの相談が非常に多いと聞いています。借家人も高齢で明渡しを求められても転居先がなく、明渡しを拒否すると高額な家賃値上げを請求され、調停や裁判になる事例が多いようです。
次に「賃貸住宅の賃貸借契約に係る相談対応研修会」の記事が紹介されました。
藤田 フォロワーさん達からの相談でも原状回復問題の相談は多いです。記事の中で原状回復のガイドライン再改定版の解説で
どのような点が重要なのでしょうか。
細谷 原状回復トラブルには二つの次元があり、明確に分けて理解することが必要です。第1は民法上の原状回復義務であり、令和2年の民法改正で賃借人の原状回復義務は「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と明文化されました。ガイドラインでは「賃借人の故意過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・棄損を復旧すること」と定義されました。賃借人が普通に使っていて、建物や設備が痛んだものは原状回復する必要はなく、どのような場合が通常使用を超えるのかガイドラインで整理されています。
第2は特約で民法上のルールと異なる合意に基づいて賃貸人から請求され、トラブルになるケースがあります。特約の合意が成立しているかどうかは、最高裁の平成17年12月16日の判決が重要で、ガイドラインではこの判決を受け、特約が成立する場合に3つの要件が設けられました。①特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由の存在。②通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことの認識。③賃借人の特約による義務負担の意思表示をしていること。通常不動産業者は、特約について賃借人が不利な特約であることを賃借人に明確に認識するような説明を行うことは稀で、特約を契約書に書くだけでは無効になるケースが多いです。
藤田 私のオフィスの賃貸借契約書では通常損耗でも賃借人負担と明記されていますが、何らの説明もなく明確な合意がなければ、特約は無効になると考えていいのでしょうか。
細谷 その通りです。また、ガイドラインでは賃借人の過失による損害賠償の責任の範囲ですが、毀損部分の原則最小単位であり、かつ減価償却を考慮した現在価値について責任を負うとされています。壁のクロスの小さなシミがある場合は、1㎡単位の修繕費を負担すればよいとの判例もあります。さらに、経過年数の考え方で、クロスは6年、カーペットは6年など設備や壁、床等の耐用年数が定められ、入居していた年数により、賃借人の負担割合も変わります。修理費用の全額を賃借人が負担する必要はありません。
国交省の賃貸借契約に係る相談対応研修会は毎年(株)社会空間研究所の主催で開催され、無料でどなたでもオンラインで参加申込できます。申込すると同研究所から沢山の資料が送られてきます。また、資料を見たい方は同研究所のホームページからダウンロードすることもできます。全借連新聞をお読みの方で、賃貸借契約について関心のある方はぜひ研修会にご参加ください。