予告していた通り、藪中三十二元外務次官の「トランプ時代の日米新ルール」(PHP新書)をベースに記事を大量投下します。まずは一番大事な北朝鮮問題です。日本にとってこれほど重要な問題もないですからね。
筆者はそもそも
北朝鮮核問題(ウィキペディア)は、
北朝鮮政府の一貫した強い核武装に対する意志により始まっているのであって、我々の態度がどうしたとかいう議論に与するつもりは全く無いのですが、あまり追い詰め過ぎると暴発する危険性がないとも言えません(163p)。ソウルや東京が火の海になったら困りますからね。北朝鮮の何時ものハッタリに反応する必要は全くありませんが、日韓の温度差は暴発に対する恐れの差にもあるかもしれません。
藪中氏は元外交官だけあって日本外交の役割を強調する立場で軍事行動に懸念も表明していますが、藪中氏も認めるように(180p~181p)、北朝鮮への軍事的圧力は効果も発揮してきました。強い核武装の意志を持つ北朝鮮が最終的に
六者会合の再開に応じたのは、ブッシュ政権が北朝鮮を悪の枢軸認定して、イラクに対する空爆を開始したからだと藪中氏も言っております。
トランプ政権のシリアへのミサイル攻撃・北朝鮮への口撃もこれに軌を一にするもので、実際に核実験の中止という成果を生み出しています。勿論中国の圧力も関係あったでしょうが、中国に強い働きかけを行っているのもトランプ政権です(トランプに対する懸念は薮中氏も述べていますが、あまり懸念懸念で成果を認めなければ、フェイクニュース!とも言いたくなるでしょう)。北朝鮮は圧力によって核放棄を決断した実績はありませんが、核放棄に向けた話し合いや核実験中止などの反応を見せたことに注意する必要があるでしょう。北朝鮮が圧力に負けずミサイルを連発したからと言って、圧力に疑義を呈するのは意図するにせよ意図しないにせよ北朝鮮の手先的になっていると言わざるを得ません。中国やロシアが北朝鮮のことをあるいは我々より良く知っているかもしれませんが、正直に喋らないことに注意するべきでしょう。スパイ大統領や中南海の権力闘争をくぐりぬけた総書記・主席の言葉(独裁国家ですから外交を担当する部署には指示を出しています)を信じるべきではありません。彼らが対話や外交を言うのはそれが効くからではなく、圧力の負の側面を強調して正の側面から目を逸らすためです。あるいは過剰反応させて負の側面を忘れさせるためです。彼らの我々に対する言葉は右から左で行動だけ見ていかなければなりません。我々の全ての発言・行動の検討は利害関係を共にしている我々だけで行う必要があります。中露の言葉は雑音でしかありません(圧力だけで北朝鮮を上手く誘導することは出来ませんから(北朝鮮は我々の基準で自発的にベストの行動をとるほど賢くありません)、最終的には話し合うことが必要です。これまで結果としてロクな成果もでなかった六者会合という枠組みには懐疑的であるならば、どう話し合うかの着地点を日米韓で意思疎通していくことも今から少なくとも裏では行っておくべきでしょう)。
中国は石炭を止めたかもしれませんが、代わりにロシアが援助しているとも言いますよね。見事な連携プレーと見るのが素直じゃないですか?日米韓や国際社会の結束も重要ですが、レッドチームの北支援をどうにか止めさせないと圧力の実効性がありません。食料やエネルギーの支援くらいはいいかもしれませんが、労働者の受け入れは現金収入に繋がり、核・ミサイル開発に直結します。大体が北朝鮮の核・ミサイル開発が独力で行ってきたものか疑問でしょう。中露をどう圧力の方向に舵を切らせるかを実効性ある圧力を導いていくためには検討しなければなりません。
中国は北朝鮮に統計上は石油を輸出していないことになっていますが(お得意の統計の嘘)、武大偉朝鮮半島特別問題特別代表は石油の輸出を認めたようです(191p)。また北朝鮮船舶の入港禁止措置・丹東での通関制限措置を恐れているようです(191p)。中国はそうした措置をとった時に北朝鮮が暴発しないか北朝鮮国内が混乱するかを恐れているようです(191p)。ですが、北が中国に対して暴発するとすれば(南に向かって中々進軍しないのと同様、北に向かってそう簡単に進軍するとは思えません)、これまで最大の支援国であった報いであるとしか思えませんし、ロシアの支援や韓国の人道支援がある限り北朝鮮国内がそうそう滅茶苦茶になることもないでしょう。
中国が難民流入ガーを言うのであれば、難民対策は協力できるところは協力してもいいでしょう。しかしながら、中露が圧力に真剣にならないのはそれが効果が無いからではなく、矛先が自分に向いていないからです。そう考えると
中露に対する最大の圧力は北朝鮮の矛先を変えるということにならざるを得ません。中露の真剣な協力を導き出すウルトラCは日米韓の結束で北朝鮮を寝返らせる努力をすることだということです。アメリカは北のような連中が好きではありませんし、韓国は統一の野望がある、ですから実現困難は明らかですが、このウルトラC無くして中露を真剣な制裁に向かわせることは不可能でないにしても中々難しい。連中は確信犯的にノラリクラリしていますからね。日本は拉致問題の解決がありますが、あるいは北朝鮮がこちら側に寝返ることによって状況が変わる可能性があります。韓国の統一の野望も現状では北主導の解決ぐらいしかありませんが、北朝鮮の寝返りという激変が長期的な展望を見出す可能性があります。アメリカも北朝鮮がこちら側になれば北朝鮮の言い分であることろのアメリカに対する自衛的手段は必要なくなる訳ですから、核放棄を決断させ易くなることは明らかだと思います。こうして日米韓がゲームチェンジの別メニューを加えることによって、中露の真剣な制裁を引き出すことが容易になってくるのではないでしょうか?実行するつもりのないハッタリはそれほど意味はありません。そう考えると六者会合の枠組みは残すとしても、中露を抜いた四者会合の枠組みを検討してもいいような気がします。あるいは米朝で話し合うかですが、トランプと北のトップとの話し合いは危険を伴うようにも思えます。小泉氏が平壌に行った時と状況が違い過ぎるでしょう。北の主席は朝貢に来たニカ?ぐらいにしか思っていなかったでしょうから余裕があります。アメリカのトップが自分の庭に来たら捕らえようと画策してもおかしくありません。そして中国に行くこともできない北のトップがこちらに出てくることは非常に考えにくい。日本は止むを得ないとは言え、拉致被害者を北を騙す形で取り返していますからね。北のトップは自分の話し相手に格(すなわちトランプ)を求めるかもしれませんが、場所設定が中々難しいだろうなというのが感想です。案外実務者どうしで寝返りに関して話し合わせて北のトップに報告させるという形で物事が進む可能性はあるように思います。北のアイデンティティというものがあるでしょう。先軍政治でやってきたのだから、それを大きく変えるような方向性では中々決断できない可能性があります。北をレッドチームに対する「鉄砲玉」にしたてあげるなら、先軍政治は止める必要がありません(ただし、核開発は止めねばなりません)。中朝の仲は結構悪いですから、実現可能性がない案とも思いませんが、どうでしょう。こうした動きが表面化したら、なりふり構わず中露が北に接近する可能性が高いですが、その場合はそこを捉えて国際社会に反する北を支援する中露を制裁するという話に持っていきます。とにかく中露が中々協力しない現状(中国が制裁に舵を切ってもロシアが穴を埋めてますから、仲良し同士話し合ってあるいは暗黙の了解で連携していると強く推定されます)で、現状の表に見えているメニューだけで乗り切るには中々高いハードルがあると認識せざるを得ませんから、
北を支援する中露に打ち込む強烈な弾が必要だと筆者には思えます。全ての選択肢を検討することが必要でしょう。こうした作戦は潔癖なイメージもあるオバマでは中々できないことだと思います(扱いに困ったのか戦略的忍耐という方針を打ち出しましたが、薮中氏も意味不明と切り捨てています(185p))。オバマ大統領もわざと北朝鮮政策を失敗させた訳じゃないでしょうが、あの時はパククネのイガンチル口撃で日韓仲間割れ状態で結束して北にあたることができなかったという事情もあります。アキヒロ氏の時は自民党政権末期・民主党政権(東アジア共同体(笑))で日本がそれどころじゃなかったでしょう。民主党政権が北朝鮮政策を進める強い意志があれば何とかなったのかもしれませんが、別にそんなこともありませんでしたしね。ともかく何をするか分からないとトランプが思われているなら、そのイメージを利用して政策を進めることも出来ます。
筆者は北朝鮮のミサイル開発の進展状況を詳しく知る立場にありませんが、北朝鮮のミサイル能力は確実に向上しているでしょう(
北ICBM、見たことない種類~米国防総省 日テレNEWS24 2017年7月6日 13:00)。藪中氏は北が1~2年でICBMを開発すると見ているアメリカの専門家が増えていると書いています(165p)。今回のICBM発射はこうした見方を打ち消す意図があったものと思われますが、まだ能力は限定的であるようですから(アメリカに届かせる角度で再突入させる技術は実証されておらず、核を搭載できる能力も示されていないと米国防省はしている)、それが何時備わるかが重要な情報になってくるでしょう。ただ、この辺は既に開発している中露の入れ知恵で加速する可能性もあるのではないですか?中露をどう〆るか、中露に北のミサイル開発をどう抑えさせるかが課題になってくると思います。独裁国家相手に北がミサイルを売る商売を進めれば、特にロシアは困るんじゃないかって気はしますけどね。
藪中氏はトランプ政権に外交専門家、安全保障の戦略家が不在と指摘していますが(167p)、重要な指摘でしょう。北朝鮮政策は失敗の山ですが、それでも専門家が必要でないということはありません。トランプ氏は選挙の時に反対した人々を信用していないようですが、専門家は専門のことはそれなりに頑張るような気はします。これまでの失敗を問いただしではどうしたらいいか真剣に検討させるべきでしょう(藪中氏はティラーソン氏の過去二十年間の北に対する取り組みは失敗だったという発言に反発も覚えたそうです。結果を見ればそうかもしれないが、具体的に何が失敗だったか指摘しないと雑だと言っています(174p~175p)。筆者は結果が重要だと思いますが、どの行動がどう間違いだったか検討することに意味はあると思います)。専門家の方々も明日あさってにトランプ政権が倒れるということはないのですから、とにかくアメリカ政府に入って仕事をすることが重要です。この重要な時期に空白があるのは好ましくないように思えます。やはり事細かに情勢を分析して適切なタイミングで政策を実行するには高官人事も重要な気はしますが、どうなんでしょうね。トランプは無くてもいけるじゃんと思っているのかもしれませんが、傍目には大丈夫かいなという心配はあります。幾らタフなトランプでも経済など全ての政策を見ながら安全保障それも極東の北朝鮮政策を事細かに全部見るのも大変な気がしますよね。
ニューヨークタイムズが北に対する攻撃を検討しているみたいですね(171p)。アメリカのリベラルは日本の左翼よりは政策を直視するところがあります。憲法9条でダイジョーブみたいな寝言をほざいたりはしません。あれで日本の左翼どもの日本や保守派に対する悪口を真に受けて日本ガーをやらなければ付き合い易くなるんですけどね。
何にせよ、北の望ましくない行動を変えさせるには、その選択肢が北にとってもいいと納得させる必要性があります。先軍政治を言っている以上、その看板を撤去させるならハードルがあがります(「ロシアの市場を荒らすのは認めるからこっちに来い」カードは有効なはずです)。でないとそれこそ戦争でもするしかないですしね。北のハッタリの山を見るにつけ、シリアみたいにミサイル撃ち込むという選択肢もあるのでは?という気がしないでもないですが、暴発の懸念が払拭できる訳ではないですよね。最近でも潜水艦を沈めるとか(
天安撃沈事件:ウィキペディア)(7年前)(多くの韓国人が北の仕業ではないのではないかと思ったのが、朝鮮半島のことでも韓国が信用されない原因です)、延平島を砲撃するとか(三代目が指揮をとったとも言います)(7年前)結構やらかしてますよね。暴発したら確実な死ですから暴発しないとは思いますが、圧力をかける上でちゃんと警戒しておく必要はあるだろうと思います。日米韓特にアメリカが変わる必要もあるかもしれません。北朝鮮を何処か認めて潰しはしないと思っていることを認めさせる必要があり(一切認めないとどうせ潰れるなら~になる可能性が否定できません)、そのためには本当には潰さない決心をする必要があります。そうでないと結構言動で伝わりますからね。それも北朝鮮が核拡散に手を染めない、アメリカに対する抑止力を手に入れない(北朝鮮は韓国に対する抑止力を既に手に入れていますが、容認できない悪行を行っていることは言うまでもありません)ことが重要です。ブルーチームは北に対する抑止力(アメリカの核)を持っていますが、必ずしも十分に効いてないことを認識していることを北朝鮮に伝える必要があります(日韓に対する殺人を含む乱暴狼藉、ドルの偽造など)。これ以上、ブルーチームに対する武器を持たせる訳にはいかないんですよね。今まで以上に何かすると見るのが自然ですから。逆に今までのところは、ブルーチームは北が我々にやってきたような攻撃はやっていませんから(実際の行動が重要です)、北は既に十分な抑止力を持っていると見ることができます(ソウル人質だけで十分でしょう。日本を攻撃できるミサイルを幾ら揃えたところで、我々は北を制裁することはあっても、援助を引き出すことは全くありません。この失敗を自認させる必要もあると思います。アメリカに届くミサイルを開発したところで、アメリカがおかしな譲歩をする可能性はありません)。北朝鮮が先軍政治をするにしても、ミサイルや核は食べられませんから、強兵は必ずしも富国に繋がらないことを認識させる必要もあります。独裁国家に短中距離ミサイルを売りまくってロシアの市場を荒らすぐらいなら許されるかもしれませんが(ICBM売りまくりはアメリカが許すはずがありません)、核拡散に手を染めればアメリカの本当のレッドラインを超えるでしょう。核テロを容認するはずがありませんからね。そして北が既にテロに手を染めている以上、国際社会を騙して核武装を進めた以上、自分だけの核武装が信用される余地もないということを理解せねばなりません。ソウルを人質にすることは韓国の北への侵攻を抑止していると思いますが、最低限度の生活が保障されているだけで、必ずしも民衆の生活の向上に繋がっていません。そして先軍政治が民衆の生活の向上に繋がる事態(ミサイルや核の輸出・犯罪収入の拡大)を我々は警戒しているし容認しないということを知らなければなりません。普通に大迷惑ですからね。ほどほどのところにしておいて我々を納得させ政権基盤を安定させたところで、民生の向上を行えば三代目の政権基盤も固まります。
今は圧力優先という安倍政権の方針は賛成します(北朝鮮がミサイル発射で勝ったと思えば益々やる可能性があります)が、何らかの形で北朝鮮の疑念を払拭し望ましい方向性に誘導することが必要です。自分で考えられないのであれば、あるいはこちらに原因があると勘違いしているのであれば、こちらが北が受け入れ易い形で教える必要もあるでしょう。別に時間が幾らでもあるのだったら何も言いませんが、タイムリミット(北がアメリカ本土に対する核攻撃能力を手に入れる)がありますからね。全ての選択肢の検討が重要です。