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スカリア裁判官、急逝

2016-02-15 19:58:51 | 法・裁判

合衆国最高裁判所のスカリア裁判官が急逝した。米紙の報道によると、テキサス州のリゾートホテルで死んでいるのが発見されたという。死因ははっきりしないが、人為的な形跡はないと伝えられる。享年79歳。
日本なら最高裁の裁判官が1人死んだってたいしたニュースじゃないですが、アメリカの最高裁、特に現在の最高裁では、非常に意味が大きな出来事です。
一橋大学の阪口正二郎さんの言葉を借りると、アメリカの最高裁は良くも悪くも「物議をかもす存在」。これは、昨夏の同性婚を全米で支持した判決を思い出せばご納得いただけるでしょう。
もうひとつは現在の最高裁の勢力図です。2005年に当時世界一権力のある女性と言われたオコナー裁判官(中間派)が引退してから、最高裁は共和党政権によって任命された5人の保守派裁判官が支配してきました。保守派が長らく望みリベラル派が恐れてきた保守的な最高裁が10年以上続いてきたわけです。
同性婚判決は保守派ながら同性愛者に同調的なケネディー裁判官がリベラル派と組んだ珍しい例です。通常の事件ではケネディーはほとんど保守派とみられています。
後任の裁判官を指名するのはオバマ大統領です。オバマ大統領は当然リベラル派の裁判官を最高裁に送り込もうとするでしょう。うまくいけば、現在のリベラル派4裁判官にもう1人加わって、久しぶりにリベラル派が支配する最高裁になります。
しかし、最高裁人事は大統領の指名では完結しません。その前に立ちはだかるのは共和党が過半数の上院。連邦裁判官の任命には上院の同意が必要です。上院は、もう引退間近なオバマ大統領の指名を快く思うはずがありません。
オバマ大統領は、上院が拒否できないような人物を見つけることができるか? 拒否できないとは、思想的に共和党も納得できる人物か、傑出した能力ゆえに同意拒否が明らかに党派的と思わせるような人物(前長官のレーンクィスト(保守派)がこれにあたります。オバマはリベラル派のレーンクィストを見つけられるか!?)ですが、どちらもハードルが高そうです。下手すると次期大統領の選出を待とう-1年近く空席ということになるかもしれません。

スカリアも死ぬ気はなかったでしょうが、悪いタイミングで死んだものです。連邦裁判官の任期は終身なので、一般に裁判官は自分を任命してくれた政党(スカリアを任命したのは共和党のレーガン大統領)の大統領在職時(つまり共和党の大統領が誕生するまで)まで引退しないと言われています。
スカリアは最高裁随一の保守派の論客。たとえば、同性婚の是非をめぐる2つの判決では、このおじさん、何でこんなすごいこと言うの!!というくらいの辛辣さです。
法廷意見が、3年前の結婚防衛法違憲判決で「本判決は、州によって合法的に認められた同性婚に限定される」としたのを「この最高裁に関するかぎり騙されてはいけない」と痛罵してみたり、昨夏の判決で、法廷意見が憲法が同性婚の権利を認めているとしたことを明確な基準によらない「おみくじクッキー」と揶揄したり(私はフォーチュンクッキーの意味を初めて知りました、笑)
と、スカリアの悪口を書きましたが、1989年と1990年の星条旗の焼却が表現の自由のひとつとして保護されるべきかという、当時の米世論でノ―という反応だった事件で、スカリアは2度とも行為者の処罰に反対する1票差の法廷意見に加わったことを忘れてはなりません。スカリアが自身の思想からすれば憎むべき行為を保護してくれなかったら、とんでもない判例が生まれるところでした。
スカリアにとっては、憲法は時代に変化に合わせて解釈するものではなく、制定者の意思どおりに解釈するものだったのですね。だから同性婚は支持せず、星条旗焼却は表現の自由と考えたのでしょう。
スカリアは何度か講演に来日しています。1回は私も拝聴しました。あと子だくさんでも有名で、最高裁のHPには9人の子持ちとあります。

追記 CNNによると、趣味の狩猟中に発作かとの報道です。

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