ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ドラマ「黒井戸殺し」

2022-05-01 17:20:52 | テレビドラマ
先日、遅まきながら三谷幸喜脚本のドラマ「黒井戸殺し」を見た。



2018年4月14日放映なので、もう4年もたってしまった。
どうしてもっと早く、せめてその年の内に見なかったのか、と後悔しきりです・・。
でも、それでもやっぱり書かずにはいられないのです。三谷さんを賞賛したい点、ひと言言いたい点とかいっぱいあって。
どうぞ聞いてください。(なお、ネタバレありです。ミステリーですし、結末を知りたくない方は読まないでください)

以前書いたように、これはアガサ・クリスティー作の「アクロイド殺し」の翻案なので、まずそれを(ほとんど覚えていなかったので)読み直し、
さらに、その名作があまりに素晴らしかったので、その印象が薄れるのを待って、ようやく見たのだった。
(原作についての感想は、2021年8月30日のブログにあり)
結論から言うと、これはクリスティーの作品とは別の作品と言った方がいい。

まず登場人物について。
ポアロ役の勝呂武尊(すぐろたける)を演じる野村萬斎 ⇒ 例によって過剰な作り込み。そんな必要があるのか。
ワトソン役となる医師役に大泉洋 ⇒ 最近すっかり「三谷組」。結末を知らない視聴者には、この配役はうまい。
医者の姉を斉藤由貴が演じている。これには驚いた。
可憐で美し過ぎる。
弟とは10歳くらい離れている設定だし、ゴシップ好きな中年女性なのだから、もっとふさわしい役者がいるだろう。と不可解だったが、
全部見終わって納得した。
なんと、彼女は脳腫瘍で余命半年なのだそうだ。
そしてそのことを知っているのは弟だけ。本人は知らない。
この処理がうまい。
と言うのも、原作では、どう考えても警察が村人たちに真相を明かさないでごまかし通すことなどできないと思われるからだ。
だから姉が病気で死んだ後(これから約半年後)に医者の手記が「発見される」という形に勝呂は持っていこうとしている。
これで原作の最大の欠陥がうまくカバーされたわけだ。

令嬢花子役の松岡茉優 ⇒ 暗い役なのに終始笑いをこらえているようで違和感を覚えた。
だってこの人は、一応名家の令嬢のはずだが、内実は伯父の黒井戸(遠藤憲一)がケチなため、金欠で身の回りのものを買うにも不自由な暮らしを強いられている。
挙句、伯父の部屋から金を盗んでしまう・・という惨めな境遇なのだ。
そんな彼女に一人の男性がアプローチして来て、罪に怯える彼女が次第に明るくなってゆくのが面白いのに。
この人はうまい役者だと思っていたが、演出がいけないのか。
彼女にアプローチして来るのは、原作では無骨な初老の探検家だが、ここでは女たらしの作家(今井朋彦)に変わっている。
この探検家は、原作中、評者から見て最も好感の持てる人物なのだが、それをまさかの女たらしのふざけた文士にするとは!
これでは二人の恋を応援する気が起きない。
クリスティーの作品には、よく若い男女が出会って惹かれ合い、最後に結ばれる、という副筋があり、それもまた魅力の一つなのだが。
ただ、時代設定を考えると、こうするのが自然だし仕方ないか、とは思う。(念のためにつけ加えると、今井朋彦さんは好きな役者さんです。)
黒井戸の義理の息子・春雄役を向井理・・苦労知らずのお坊ちゃん役。なかなか合ってる。
執事役を藤井隆・・これがいい。挙動不審で、いかにも怪しい(笑)。視聴者をミスリードするにはもってこいだ。
家政婦長を余貴美子・・・いかにもしっかり者らしく、かつ、どこか影のある女性がぴったり。
令嬢花子の母を草刈民代・・・この人は、娘に盗みをするよう指図するなど、かなり悪い人に変えられている。

三谷版の大きな特徴としては、冷血漢の医師が、より人間味ある人に変化していることが挙げられる。
原作では、ただ金が欲しくて「欲望が抑えられず、もっともっとと」未亡人をゆする下劣な奴だが、ここでは「病気の姉の治療費のため」という、はっきり言って
お涙頂戴的な動機(設定)になっていて啞然とさせられる。
だが前述のように原作の欠陥をカバーするためにはそうするしかなかっただろう。
それでもなお、何の罪もない、しかも自分を信じて疑わない黒井戸を殺し、やはり自分を信頼し切っている春雄にその罪をなすりつけようとした罪は重いが。

結論としては、これはクリスティーの小説とは別の話と考えた方がいい。
三谷氏が、あれを元に別の物語を創り出した、と考えるべきだろう。
それと、原作で重要なのは、佐奈子が自殺したのは犯人に脅されていたからではないこと。愛する黒井戸に過去の罪を告白した時、彼の心が彼女から
サーッと離れていったのを見たからだ。彼は彼女を愛し、プロポーズし続けていたが、彼女の告白を聞いて、それを許し、受け入れることができなかった。
彼の表情からそれを読み取った彼女は、絶望し、自分の罪は、やはり死ぬことでしかあがなえないのだ、と悟って死を選んだのだ。
たぶん話が複雑になるのを避けたのだろう。何と言ってもテレビドラマの尺に合わせないといけないのだから。
でもここは重要なポイントなので、忘れてはいけないと思う。

原作に登場する料理も、鍋焼きうどんとかカレーライス(もどき)とかになり、精神病患者のための療養所が、村のお寺になっている。
野村萬斎と大泉洋とは、2011年に三谷幸喜の「ベッジ・パードン」で共演しているので、息はぴったり。
その他、吉田羊や佐藤二朗、浅野和之など、三谷組がたくさん起用されていて楽しい。

今回も楽しませてもらいました。しばらくは録画を保存します。
名作「三谷版オリエント急行殺人事件」の方は、永久保存です。
あれはケネス・ブラナー監督・主演の映画を超えていると思います💖



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