ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

蓬莱竜太作「首切り王子と愚かな女」

2021-07-02 11:54:08 | 芝居
6月15日パルコ劇場で、蓬莱竜太作「首切り王子と愚かな女」を見た(演出:蓬莱竜太)。

雪深い暗い王国ルーブ。英雄であり人格者であった先王バルが早くに没して20年。女王デン(若村麻由美)は「永久女王」としてルーブを統治していたが、
溺愛していた第一王子ナルが病に倒れてからは国のことを見なくなり、魔法使いを城に招き入れ、閉じこもるようになった。ルーブ国は統治者を失った国になっていた。
国は呪われ、民は貧しさに疲弊し、反乱の気運が高まっていく。
そこで城に呼ばれたのが第二王子トル(井上芳雄)であった。トルは幼い頃から「呪われた子」とされ城から遠ざけられていたが、反乱分子を鎮圧するために
再び城に戻される。使命に燃えたトルは、反乱分子の首を次々に落とし「首切り王子」として恐れられるようになる。
リンデンの谷に住む娘ヴィリ(伊藤沙莉)は死ぬことにした。これ以上生きる理由が見当たらなかったからだ。最果ての崖にたどり着いたヴィリが目にしたものは
白い空と黒い海と首切りの処刑であった。
首切り王子トルは死を恐れないヴィリに興味を持ち、召使いとして自分に仕えるように命令する。
城に連れられていくヴィリが耳にしたのは王子の歌であった。美しくも悲しい歌。ヴィリはトルに深く暗い孤独を見る。
こうしてヴィリは召使いとして首切り王子に仕える日々を送り始める。
そこに見たのは野心や愛憎、陰謀が渦巻く人間たちの姿であった(チラシより)。

井上芳雄と蓬莱竜太が6年ぶりのタッグで描く、ブラックで、しかし人間の真実に迫る「現代の寓話」とのこと。
その初日を見た。ネタバレあります。ご注意を!
物語はヴィリの視点から語られる。
何しろ冒頭、いきなり首切りの処刑が何人も続くので、さっぱりわけがわからず、とにかく恐ろしく殺伐とした話のようだと思っていると、次第に王国の状況が
明らかになってくる。そこには第二王子の奇妙な出生の事情が絡んでいた。
先王バル、永久女王デン、第一王子ナル、第二王子トル、娘ヴィリ、と名前がどれも王族らしくなく、手抜きっぽいが、最後にそのわけが判明する。
王子たちの名前に、実は深い意味があり、他の人たちの名前もそれに引きずられて、と言うか、それに合わせて短くなったようだ。
物語は暗く、母の愛を求めても得られないトルの悲しみが迫ってくる。

語られるセリフのセンスが相変わらず素晴らしい。
今風で、生き生きしていて、さすが蓬莱竜太、といちいち感心してしまう。
特に、この芝居の狂言回しとも言うべきヴィリの独白がいい。
またヴィリ役の伊藤沙莉という人が、その役柄にぴったりで素晴らしい。
美声ではないが、声もいい。独特な強さのある低音。
作者は彼女に宛て書きしたに違いないと思う。
評者は彼女を、この日初めて見たが、テレビによく出ているらしく、彼女目当ての観客も大勢いたようだ。
(ちなみに評者の目当ては若村麻由美さん。そして井上芳雄と太田緑ロランス)
音楽(阿部海太郎)もいい。出しゃばらず控え目だが効果的。

ただ、ヴィリが(行動も態度も声も)一貫して中性的なので、いつの間にか第二王妃になっていたという展開に、なかなかついて行けない。
トルと夜、カードをして遊んだり、釣りをしたり、馬の競技をしたりするのも、男の子同士が仲良くしているようにしか見えないし。
トルは、いつから彼女を女性として見るようになったのだろうか。ストーリーの急な飛躍に違和感がある。そこが惜しい。

ヴィリも姉リーガン(太田緑ロランス)も、自殺しようとして王子(それぞれ別の)に出会い、自殺を止められたことがきっかけで城に入る、という点が共通している。

少女ヴィリなど魅力的だが、残念ながら物語としてあちこち破綻している。
役者では、期待通り若村麻由美が好演。言わば敵役だが、だからこそ、これくらい強く毅然として、かつ魅力的でなければならない。この人は声もいい。

蓬莱竜太はこれまで家族の問題や子供同士の人間関係について、さまざまな角度から描いてきた。
地方の旧家の跡取り娘が家系を絶やさないかどうかをめぐる「まほろば」、小学校の同窓会で過去の出来事の真実が暴かれる「正しい教室」、奔放な母に振り回される
娘たちを描く「母と惑星について、および自転する女たちの記録」、久々の帰省がきっかけで、長年積み重なってきた家庭内の問題が浮き彫りになる「消えていくなら朝」、
団地に住む小学生たちの力関係、そして震災後の不穏な社会とそこにうごめく人々を描く「渦が森団地の眠れない子たち」等々。
だから今回のチラシを見た時は驚いた。突然のファンタジー化?
民を顧みない為政者に対して、虐げられてきた民衆が、ついに立ち上がり反乱を起こすという結末は、ひょっとして暗喩なのか、とも思ったが、どうも違うようだ。
ファンタジーの形を取りながらも、作者の関心は、やはり家族の問題、そして人間関係のようだ。




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