言うところの山女、30代の終わりから40代の初めにかけての山と仕事、そして男との別離が繊細な言葉で綴られている。感心したのは山の記述、登山準備から始まって入山口までのアクセスや山の登り降り、山小屋での食事・宿泊など、ちょっとしたガイドブック並み。編集者とは言え文庫本3冊やお湯を沸かすだけなのに携帯コンロ・鍋をザックに詰めるなど重量に疑問の部分もあるが、装備は完璧。もちろん紀行文ではなく物語である。上司とのあつれきやスタッフとの関係、気の置けない同僚・故郷の友人との交流、心揺れる彼との決別。そして山の自然とその厳しさなどを豊かな情景表現<大きな水音が、近づく夕闇を洗うように><物凄く寒い。冷気が頬に噛みついて来る。>で引き込む。作者が男性、それも自分と同じ年代と知って驚いたが、山好きはもとより縁遠い人にもお薦めの本。