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思い出すほどに暗く、深い『夜の谷を行く』

2017年08月25日 | 読書

約40年前、連合赤軍が起こした大量リンチ殺人の山岳ベース事件を題材にした小説。東大安田講堂の陥落から3年後、新左翼運動の退潮と世論の離反を決定づけたとも言われる事件は冬の群馬県榛名・迦葉・妙義山の雪山を血に染めた。そこから逃亡し、刑期を終え目立たぬように生きていた女主人公への一本の電話、そして目にした「永田死刑囚が死亡」の新聞記事から物語が始まる。冒頭の限られた空間での日常の出来事は笑えるが一転、事件当事者たちの以降の過ごしてきた人生、特に家族・親戚との義絶、その家族らへの世間の視線、降りかかる不幸は想像を超える。それ以上に真冬の雪の山間部で繰り広げられたアジト生活、そしてあの凄惨な殺人に至る総括を詳細に描く。実在の人物が多数織り込まれ、「森林法違反、爆発物取締法違反、火取法違反、銃刀法違反、殺人、死体遺棄」などの罪状が当時の報道のように思い出させ、読むほどに苦い胃液が。一方、永田洋子への一審判決文を主人公が述懐する場面で<あたかも永田洋子の個人の資質が原因であったかのように断じた>そして<連合赤軍事件をひとつの色で染め上げることには成功したようだ>と問題提起。さらに主人公は後段で<山で子供たちを皆で育てて、革命戦士にする計画があった>ことを打ち明ける。事実、子連れや妊婦の女性メンバーや看護師・保育士もいたようだが、真偽はどうだろうか。だが、これを伏線として最後に主人公が抱く<希望という慣れない感情>は、まだ見通すことのできない深い谷間のわずかな救いとして読んだ。

  

 



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