12月も終わりに近づき、この1年に亡くなった著名人を偲ぶ番組が流れている。今年も現役時代の知り合いが何人か旅立った。この本の著者もその一人であり、かって同じ職場の上司だった。在職中はもちろん退職後も観光振興や歴史作家などエネルギッシュに活躍していたので驚きで聞いた。だが最近、体調を崩していたこと、それでも遺作となったこの本の仕上げで相当無理をしていたらしい。ご家族からそうした話とともに受け取った本、昔の語り口の痕跡にうなずきながら読み進めた。終戦近い昭和20年8月、アメリカも成功していなかったジェット戦闘機のテスト飛行に成功、その極秘開発が神奈川県西部の丹沢山麓で行われていたという話である。当時の日本と日独伊三国同盟はじめ米欧諸国との関係、ドイツから提供受けたジェット機開発の秘密資料の運搬、敵攻撃を避けての潜水艦による長い航海などスリリングな展開が興味をそそる。入手した資料の多くは撃沈され、持ち帰れた資料はわずか。しかし失敗を重ねた末にエンジン開発に成功、B29飛来の間隙をぬって「橘花」は木更津飛行場の空に舞った。世界で5番目となる初飛行の成功も数日後に終戦を迎え、歴史から消えた。関わった人物の詳述や開発地・秦野での生活ぶりなど、50を超える参考文献・資料を読み込み、地元関係者らの聞き取りによる労作である。あとがきには、地元の若者にむけた「世界に飛べ、秦野からの勇者たちよ」とのメッセージ。著者が在職中、周囲にふりまいた熱い思いに通じるものを感じた。ご本人からの最後の年賀状に「いまだ夢は世界を駆け巡っています」と。たぶん、あの世界でも大いに夢を広げているに違いない。
*本巻末の「著者プロフィール」より抜粋(定年後、観光コンサルタント、歴史作家として活躍。現鹿児島日英友好協会理事、元上海大学国際交流学院名誉教授/主な著書「日本留学生列伝」「明治文明開化の花々」「幕末に学んだ若き志士達」「最期の幕臣中島三郎介」「海外旅行基礎英語辞典」「熟年者のための海外旅行術」「英会話 ジャスト・ア・モーメント」など)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます